平安時代の重要用語

伊勢物語 
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「伊勢物語」(いせものがたり)は、「昔、男ありけり」で始まり、その多感で風流な主人公の恋愛・友情・流浪・別離といった多岐にわたるエピソードを、和歌で綴った歌物語。作者・成立年は未詳ですが、平安時代初期に実在した貴族・歌人「在原業平」(ありわらのなりひら)をモデルとして主人公にしたものとされ、また、在原業平の子孫によって作られたとも考えられています。日本最古の作り物語とされる「竹取物語」(たけとりものがたり)と同時期に書かれ、歌物語としては最古の作品。「源氏物語」など後代の物語文学や和歌に大きな影響を与えたことでも知られています。

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「伊勢物語」(いせものがたり)は、「昔、男ありけり」で始まり、その多感で風流な主人公の恋愛・友情・流浪・別離といった多岐にわたるエピソードを、和歌で綴った歌物語。作者・成立年は未詳ですが、平安時代初期に実在した貴族・歌人「在原業平」(ありわらのなりひら)をモデルとして主人公にしたものとされ、また、在原業平の子孫によって作られたとも考えられています。日本最古の作り物語とされる「竹取物語」(たけとりものがたり)と同時期に書かれ、歌物語としては最古の作品。「源氏物語」など後代の物語文学や和歌に大きな影響を与えたことでも知られています。

歌に生き、恋に生きた美男・在原業平

在原業平(小刀百人一首)

在原業平

「伊勢物語」には主人公の名は明記されていませんが、その主人公のモデルと考えられているのが、在原業平です。

在原業平は、51代「平城天皇」(へいぜいてんのう)の孫であり、蔵人(くろうど:天皇の秘書)を務めた人物。兄の「在原行平」(ありわらのゆきひら)とともに臣籍(しんせき:皇族以外の身分)へ下り、在原の姓を賜ったとされています。

その経歴よりも、伊勢物語の影響もあって「業平男」(なりひらおとこ)と称された、伝説的な色男ぶりの方が有名です。いわゆる、イケメンの元祖として「源氏物語」の主人公、「光源氏」(ひかるげんじ)を思い浮かべる人も多いでしょうが、光源氏は架空の人物。

実は、その光源氏のモデルのひとりとも考えられているのが在原業平なのです。また、在原業平は、「六歌仙」(ろっかせん:古今和歌集[こきんわかしゅう]の序文に記された6名の代表的な歌人)のひとりでもあります。

「ちはやぶる 神代もきかず たつ田川 からくれなゐに 水くくるとは」(紅葉が竜田川の水面を埋め尽くしている。一部は流れにまかせて踊るように水をくぐっている。こんな美しい景色は、神の時代までさかのぼっても見ることはできないだろう)。

これは「小倉百人一首」(おぐらひゃくにんいっしゅ:鎌倉時代初期の歌人・藤原定家[ふじわらのさだいえ/ていか]が百人の歌人の和歌を一首ずつ選び集めた歌集)に収められている、在原業平の句です。

句中の「くくる」には「絞る」(しぼる)という意味もあり、「くれない」が恋心を連想させることから、心を締め付けるような恋心を表現しているとも詠め、恋に生きた男・在原業平らしい和歌とも言えます。伊勢物語は、在原業平のような高貴な生まれでありながら、規律に縛られず、物にこだわらずに生きた「自由人」の生きざまに触れることができる物語です。

藤原政権下の実態も物語る伊勢物語

伊勢物語には、当時の藤原氏一族の圧倒的な政権支配により、主人公が自分自身を「身をえうなきもの」(役に立たない者)と思い込み、京には入らないようにするという一文もあります。

主人公が京を避けて、はるばる関東への旅の日々を書きつづった「東下り」の場面において、当時の社会実態を物語っていると言われています。

創世記の「かな文学」の代表作のひとつ

また、伊勢物語は「竹取物語」と同じく、「かな文字」が成立した時代の代表作であり、「歌物語」としては現存する日本最古の作品。同じく歌物語とされるものに「大和物語」(やまとものがたり)があります。ですが、後世への影響力の大きさでは伊勢物語が抜きんでており、文学全体としても源氏物語、「古今和歌集」と並び平安時代の3大文学と見る研究者もいます。

江戸時代、「寛政の改革」(かんせいのかいかく)を行った老中「松平定信」(まつだいらさだのぶ)は、学問・文筆にも秀でた人物で、自身の随筆「花月草紙」(かげつそうし)において、「伊勢物語は梅の如く、源氏物語は桜の如く、狭衣は山吹の如し」と高く評価。このことからも、伊勢物語は後世においても、知識人に広く読まれていたことが分かります。

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