「竹取物語」(たけとりものがたり)は、日本最古の「作り物語」です。作者成立年ともに未詳ですが、現在では平安時代前期に男性知識人によって作られたと考えられています。作り物語とは、平安時代における物語文学の分類の名称でもあり、いわゆる事実に基づかないつくりばなし、現代風に言えばフィクション小説のことです。「かぐや姫の物語」とも呼ばれ、子ども向けの童話「かぐや姫」の原型となっている古典です。
「今は昔、竹取の翁といふ者有りけり」で始まる「竹取物語」。
竹の伐採を生業とする翁(おきな:老人男性のこと)によって、光り輝く竹の中から見付けられた少女(かぐや姫)は、実は月の世界の姫君。わずかの間に成長し、そのあまりの美しさに次々と5人の貴公子が求婚。
しかしすべて難題をふっかけて退け、最後には帝(みかど:天皇)の目にも留まるものの、結局は月へ帰っていくという物語です。
この竹取物語を「紫式部」(むらさきしきぶ)は、自身の作品「源氏物語」(げんじものがたり:平安時代中期の小説)の中で「物語のいで来はじめの祖」として登場させ、高く評価。この「祖」は「おや」と読み、元祖・代表の意。
竹取物語以前の物語は、各地に伝わる神話・伝説に対して、竹取物語は作者個人の創造力が生み出したという点から、紫式部は一目置いていたのです。この紫式部の賛辞は、竹取物語の知名度を高めるのに大いに貢献したと言われています。
竹取物語の誕生と深くかかわるのが、「かな文字」(仮名文字)の誕生。この時代にかな文字が成立したことで、物語が書きやすくなったと考えられています。
かな文字は、いわゆる日本独自の文字文化。それまで中国から導入された漢字だけを使っていましたが、この時期より漢字の簡略化、部分的に崩すなどして創作された、「ひらがな」と「カタカナ」が使われるようになりました。
これにより、漢文による堅苦しい表現しかできなかったものが、日本人の細やかな感情を書き表すことができるようになったと言われています。
竹取物語は創作とは言え、作者による完全な独創ではなく、古くより伝承されて来た説話を、たくみに組み合わせたり、つなぎ合わせたりして作られたとも言われています。例えば、場面ごとに見られるのが、次のような説話です。
「小さ子説話・異常誕生譚」(ちいさこせつわ・いじょうたんじょうたん)。非常に体が小さい、あるいは通常ではありえない不思議な誕生の仕方をする説話。
「致富長者譚」(ちふじょうしゃたん)。長者の栄華から没落を主題とした、伝説・説話類の総称。
「求婚難題説話」。一目ぼれをした男性が、女性の両親や周りにいる人物から難題を突き付けられる説話。
これらだけでなく、作品全体を通して、白鳥の姿で地上に降りてきた天女に恋をする「白鳥処女説話」(はくちょうしょじょせつわ)の影響を受けていると考えられています。
また、竹取物語は「竹取の翁の物語」の略称であるとも伝わり、題名からすると本当の主人公は竹取の翁とも読み取れます。
しかし、私達が親しんでいる竹取物語の主人公は、かぐや姫以外には考えられません。当初の竹取の翁の物語をもとに、翁からかぐや姫へと主役が変更されたのが竹取物語であり、その主人公の変更こそが作者の独創によるものという説もあります。
これまでも竹取物語は、様々な読み解き方が示されてきました。例えば、5人の貴公子のモデルとされる人物から、当時の藤原氏一族の政権を批判した物語という説。
現代では、かぐや姫を宇宙船に乗って地球へ飛来した異星人説に見立てるといったこともしています。このように様々な想像を掻き立てられるのも、竹取物語が謎だらけだからこそ。
また、竹取物語は「伝奇物語」(でんきものがたり:空想性の高い物語)分野のひとつともされています。これは竹から人が生まれたり、月から使者が訪れたりと、当時の科学知識を超えた想像力が描かれているからです。
さらに前述の通り、かぐや姫の誕生には小さ子説話・異常誕生譚もかかわっているとされています。昔話として知られる「一寸法師」(いっすんぼうし)や「桃太郎」、「力太郎」、「瓜子姫」(うりこひめ)などの主人公と同じです。しかし彼らとかぐや姫には決定的な違いがあります。
それは、かぐや姫は「全く何も行動しない」ということ。鬼退治どころか、結局は結婚もしません。しかしながら、「何もしていないようでいて、本当は何かを果たしているのではないか」と考える研究者もいます。
それを読み手に考えさせるのが、実は作者の真の狙いなのではないかというのです。作り物語と昔話の最大の違いはそこにあり、読者それぞれの読み解き方を楽しむことが竹取物語の魅力でもあるのです。