刀剣ファンなら、日本刀と同じく「切る」という機能を持つ「包丁」選びにもこだわりたいものです。包丁には、大きく「和包丁」(わぼうちょう)と「洋包丁」(ようぼうちょう)があり、切る食材によって刃の形や大きさが異なるなど、様々な種類が販売されています。包丁の選び方や使い方、研ぎ方や捨て方、また、日本刀作りの技術を取り入れたブランド包丁情報まで。刀剣ファンにおすすめの包丁について、詳しくご紹介します。
「包丁の種類」には、大きく片刃の「和包丁」と両刃の「洋包丁」の2種類があります。この2種類を基本として、一般家庭で使う包丁から食材・目的別に考案されたプロの料理人が使う包丁まで、いろいろな種別の包丁が販売されているのです。また包丁の長さは、使う人の手のひらのサイズに合わせて、大ぶりな物から小ぶりの物まで様々用意されています。自分の目的や手のひらのサイズに合った包丁を見つけられれば、料理をすることがぐっと楽しくなるはずです。代表的な包丁の種類と種別、長さを覚えましょう。
「和包丁」とは、「片刃」タイプの包丁のことです。片刃とは、刃が片側だけに付いている物。魚を骨ごと切ったり、断面を美しく切ったりという作業に向いています。
さらに和包丁には、魚を捌くのに適した「出刃包丁」(でばぼうちょう)、刺身を切るのに適した「柳刃包丁」(やなぎばぼうちょう:刺身包丁)、野菜を切るのに適した「菜切包丁」(なきりぼうちょう)などの種別があります。
出刃包丁(和包丁)とは、魚を捌くときに使用する包丁です。
刀身が厚く、重量があるのが特徴で、魚の頭を断ち切り、ブツ切や三枚におろすのに適しています。
刃長は15㎝前後がおすすめです。
柳刃包丁とは、柳の葉のように細く長い形状をした包丁です。
下ろした魚を切り身にしたり、刺身にしたりするのに適しています。
刃長は21~36㎝までありますが、一般家庭におすすめなのは24㎝程度の物です。
菜切包丁とは、野菜を切るための包丁。
キャベツや白菜などの大きな野菜を細かく刻むのに適しています。
和包丁ですが片刃ではなく両刃で、刃が薄いのが特徴。刃長は16.5㎝程度がおすすめです。
洋包丁とは、両刃タイプの包丁のこと。両刃とは、両面に刃が付いている物です。
食材を切るときには、均等に力が加わり、肉や魚、野菜など、種類を問わず様々な食物を切り、刻むことができます。
現在、日本の一般家庭で使用されている包丁のほとんどが洋包丁。
「三徳包丁」(さんとくぼうちょう)、「牛刀」(ぎゅうとう)、「ペティナイフ」、「果物ナイフ」などの種別があります。
三徳包丁とは、日本で考案され、日本の家庭で一般的に使用されている包丁です。
「三徳」とは、「肉・魚・野菜の3種類の食材を切ることができる」(3つの用途に対応する)包丁と言う意味。刃長は15~18㎝程度がおすすめです。
牛刀とは、西洋では万能包丁として扱われ、最も普及している包丁です。
牛肉だけではなく、野菜やパンなど、様々な物を切るのに適しています。三徳包丁よりも刃が長く、重量があるのが特徴。
刃長は18~30㎝までありますが、料理に不慣れな方には18㎝、ある程度慣れている方には21~24㎝の物がおすすめです。多くのプロの料理人に愛用されているため「シェフナイフ」とも呼ばれています。
ペティナイフとは、小型で刃先が尖っている包丁です。「小型の牛刀」とも言われ、手のひらの小さい人に向いています。
野菜や果物の皮むき、飾り切りなどに適しています。刃長は12~15㎝の物がおすすめです。
果物ナイフとは、鞘(さや)が付いているナイフのこと。果物の皮を剥くためのナイフで、値段は比較的安価であるのが特徴です。
包丁の種類や種別、長さが分かったら、次は包丁の「素材」や「加工」を確認しましょう。包丁は素材や加工によって、切れ味や耐久性、錆びやすさや研ぎやすさなどのコンディションが変化します。きちんとお手入れをすることができるかなど、使う人の性格や職業、調理方法などを合わせて考えるのがおすすめです。包丁は、➀包丁の種類が用途に合っているか、②使う人の手のひらのサイズにあっているか、③刃にくぼみや刃こぼれがないか、④刀身が不自然に曲がっていないかを確認して、選びましょう。刀身に刃こぼれや曲がった部分があると、どれだけ優れた切れ味を持った包丁であっても食材をうまく切ることができません。
「鋼」(はがね)とは、不純物が取り除かれた鉄のこと。和包丁の素材で、包丁が作られる際、日本刀と同様に焼き入れが施されるのが特徴です。
切れ味が優れている反面、錆びやすいため、こまめにお手入れをしなければ、鋭い切れ味を持続させることができません。
毎日包丁の手入れを欠かさないプロの料理人に、おすすめです。
「セラミック」とは、非金属・無機材料で、高温処理を受けて製造された物。セラミックの包丁は、よく切れて、軽くて、錆びにくく、お手入れが簡単などメリット抜群。
しかし、落とすとすぐに割れや欠けが生じることが多く、研ぎ直しもできないというデメリットがあります。
「ステンレス」とは、耐食性に優れた合金鋼の総称です。
「ステンレス刃物鋼」は錆びにくいため、お手入れが簡単で、家庭用包丁として最も使われており、調理の初心者にも向いています。
ステンレスにモリブデンとバナジウムという素材が加えられた「モリブデンバナジウム鋼」や地鉄の模様が美しい「ダマスカス鋼」、また、「コバルト合金鋼」など種類も豊富で、鋭い切れ味とその切れ味が持続し、研ぎやすいと高く評価されています。
包丁を選ぶ際は、より清潔に包丁を使うためにも、手入れのしやすさを考えることも重要です。そこで、考えたいのが柄の素材。最近では柄と刃が一体になったつなぎ目の無い「ステンレス一体式柄」などもあり、おすすめです。
包丁に切った食材がくっついて離れず、調理時のストレスになることはありませんか。それは、野菜や果物など、食材に水分が多いため。
そのストレスを軽減するために、ある加工が施された包丁があります。それは、「刃離れ加工」。刀身にくぼみや穴を開け、包丁と食材の間に空間ができることで接地面を減らし、刃離れを良くしているのです。
また、「フッ素コーティング加工」がされた包丁も、刃と食材の摩擦が軽減されるため刃離れが良く、汚れが付きにくいという利点があります。加工が施された包丁は、お手入れも簡単で、おすすめです。
「包丁の持ち方」には、食材の切り方に合わせて、①握り型、②指差し型、③押さえ型の3種類があり、「包丁の切り方」には、「押し切り」と「引き切り」の2種類があります。これらを組み合わせて、包丁を正しく使うことができると、自分の指を切るという心配がなくなることはもちろん、食材の細胞を壊すことなく、食材のおいしさを引き出すことができます。包丁の持ち方と包丁の切り方をしっかりと覚え、包丁を使いこなせるようになりましょう。
握り型とは、包丁の刃を下向きにして、「親指」と「人差し指」で包丁の刃元を挟み、残りの3本と手のひら全体で、柄をしっかりと握る方法です。
固い食材を切る場合に適しており、柄を持つ小指に力を入れることで、安定して動かすことができます。
指差し型とは、包丁の棟(むね:峰[みね]とも呼ばれる、刃と反対側の部位)に人差し指を添える持ち方です。
包丁を微細にコントロールすることができます。刺身の柵など、身崩れしやすい食材を切るときに適しています。
押さえ型とは、親指と人差し指で包丁の側面(腹)を押さえる持ち方です。
親指と人差し指で刃をしっかりと固定するため、力を入れやすくなります。
キャベツの千切りなどに適しています。
包丁の切り方には、「押し切り」と「引き切り」があります。このとき、包丁を持っていない方の手で、食材を押さえます。これを「添え手」と言い、指を切らないように「グー」(猫の手)にするのが基本です。また、添え手の中指または人差し指の第一関節を刃の側面に当てておくのが重要となります。
押し切りとは、包丁を前方へ押して切る方法のこと。
根菜などの固い食材は、力を入れないと切れないため押し切りをするのが適切です。
包丁の重さを上手に利用して、斜め前に押し出すように切るとスムーズにカットできます。
引き切りとは、包丁を後方(手前)に引きながら切る方法のことです。刺身などやわらかい食材を切る際は引き切りが大切。
引き切りにすると、切断面の細胞を壊さず、切り口がとても綺麗になり、旨味成分も逃さないと言われています。
押し切りで切ってしまうと、断面はぐちゃぐちゃで汚くなる他、旨味成分が逃げてしまいます。このように、刺身を包丁で切るには、持ち方は「指差し方」、切り方は「引き切り」にするのが最適。食材は切り方で、料理のおいしさに大きな影響が出るのです。
食育の一貫として、子供用の包丁も販売されています。子供用の包丁 は、子供の手のひらに合わせて、サイズが小さいのが特徴。
「切れない包丁」(料理がはじめての子ども向け)と「切れる包丁」(料理に慣れた子供向け)が販売されているので、はじめて使う場合はよく見てから購入すること。
包丁は、調理ができる物ですが、大人でも不注意で指を切る恐れがある危険な物です。子供に包丁を持たせるときは、包丁の危険性をしっかりと教えることが肝心。ルールを決めて守ることが、怪我の防止に繫がります。
包丁は錆びやすく、使用しているうちに、どうしても切れ味が落ちてきてしまいます。しかし、そんな場合には、砥石(といし)を使うと効果的。砥石を使うことで、鈍った刃を鋭利な刃に蘇らせることができます。包丁を研ぐタイミングは、「トマトがきれいに切れない」または「刺身を切ったときに切口の角が立たない」ときを目安にすると良いでしょう。切れない包丁を使い続けることは、ストレスやケガのにもなるので、たいへん危険です。包丁の切れ味が鈍くなったと感じたら、月1回程度、包丁を研ぐようにしましょう。
包丁を研ぐ前に、中性洗剤を使ってしっかり汚れを落としましょう。
砥石に付属している取扱説明書を確認し、砥石を水に浸します。このとき砥石から空気の泡が出なくなるまで浸すこと。続いて、砥石を研ぎ台にセットします。
研ぎ台がない場合は、濡らしたタオルを用意して、濡らしたタオルの上に砥石を置いて滑らないように固定すること。
包丁の柄を利き手でしっかりと握り、刃の顎(あご)部分を親指で押さえ、砥石に対して45°くらいの角度で刃の根元を当てましょう。
利き手ではない方の手の指を刃に添えて、包丁を押して砥ぎます。押すときに力を入れ、戻すときは力を緩めること。
砥石全体を使って、丁寧に研いでいきましょう。研いでいると黒っぽい研ぎ汁が出ますが、研ぎ汁は研ぐために必要なため流さないこと。
片刃の包丁は刃の付いている表面だけで、刃の付いていない裏面はカエリ(バリ)を落とす程度にします。
カエリ(バリ)とは、指で触ってみると分かる、研いでいる刃の面とは反対側の面に生じる引っかかりのこと。カエリがあれば、刃を砥石に軽く当て、円を描くように動かしてカエリを取り除きます。両刃の包丁は、表面と同じように裏面も研ぎましょう。
砥石の表面が乾いてきたと感じたら水をかけます。包丁がきちんと研げているかどうか確かめるためには、刃にカエリ(バリ)が出ているかどうか触って確かめましょう。
最後に、包丁を中性洗剤で丁寧に洗って、刃に付いた研ぎ汁を流し落とすこと。研いだ包丁をすぐに使うと、金属の臭いが食材に移る場合があるため、包丁を半日ほど置いてから使うのがおすすめです。
「砥石」とは、刃物の研磨に用いる石のことです。粒子の粗さによって、荒砥、中砥、仕上砥の3種類があります。箱やパッケージには「♯」(シャープ)から始まる「番手」(ばんて:砥石の粒子の細かさにあたる粒度)の番号が書かれているので、こちらと共に確認して購入しましょう。
日常使いでおすすめなのは、中砥石(番手:♯800~2000程度)。番手の番号は数字が大きくなるほど、砥石の表面はきめ細かくなめらかとなります。
表面はザラザラで研ぐ力が強い。刃が欠けた場合などに使用します。
日常的なお手入れに向いた砥石です。ひとつ用意しておくと良いでしょう。
中砥石を使用したあとの仕上げに使うと効果的。
砥石は使用すると表面がへこむため、そのままにしておくと次の機会にはうまく研ぐことができません。そこで必要となるのが、「面直し砥石」。
面直し砥石とは、砥石の表面を平らに戻すための道具なのです。使用方法は、円を描くように砥石の表面をこすること。
表面が平らになったかどうかを確認するときは定規を当てて確認しましょう。定規と砥石表面に隙間ができていなければ平らになったと分かります。使用したあとの面直し砥石は、水道水できちんと洗い、日陰に干してよく乾かしましょう。
刃が欠けて、柄が壊れた場合は、残念ながら包丁の捨てるタイミングです。包丁は通常のゴミと同様に、ゴミ袋に入れて自治体で「不燃ゴミ」または「金属」として収集してもらうことができます。包丁を不燃ゴミや金属として捨てる際の分別方法や出し方は、各自治体によって違いがあり、統一されていませんので、自分の属する自治体の分別ルールをしっかり確認して、安全面に十分配慮して捨てること。また、捨てるのではなく、神社などで供養してもらう方法もあります。
包丁で自分自身の手を傷付けないよう、安全のため、作業に入る前に軍手や防刃手袋をはめましょう。
刃の部分を厚紙やダンボール、新聞紙などで巻きましょう。新聞紙はすぐ破れてしまうので、刃が露出しないように、何重にも重ねて巻き付けます。
包丁が露出しないように、さらにガムテープで3~4ヵ所をしっかりと固定します。
地域指定のゴミ袋に、厚紙やガムテープで巻いた包丁を入れます。ゴミ袋に、油性ペンで大きく「キケン」と書くと効果的。
ゴミ袋に入れずに、包丁を厚紙などにくるんだまま出すように定めている自治体もあるため、その場合は巻いた厚紙に直接キケンと記載しておきましょう。
包丁に愛着や思い出がある場合、ゴミとして捨てることをためらう人もいるでしょう。そんな人にオススメしたいのが、包丁を神社などで供養してもらう方法です。「刃物供養」で有名な神社などをいくつかご紹介します。
「高家神社」(たかべじんじゃ)は、主祭神に、料理の祖神「磐鹿六鴈命」(いわかむつかりのみこと)を祀る神社。
拝殿の左右には「庖丁塚」が置かれており、調理師など多くの料理関係者が包丁の供養に訪れています。
毎年5月17日と10月17日(旧神嘗祭)、11月23日(旧新嘗祭)に、「庖丁式」の奉納の儀が行われ、毎月17日に「庖丁供養祭」を開催されています。
「関鍛冶伝承館」では、毎年11月8日に「刃物供養祭」を開催。
長年使用された刃物に感謝の気持ちを込めて、手厚い供養が行われています。
刃物供養祭へ直接行くことが難しい場合は、郵送などでも受け付けてくれるので、一度検討してみるのも良いかもしれません。
包丁にも、日本刀の素晴らしさを継承する一流のブランドがあるということをご存知でしょうか。1876年(明治9年)の「廃刀令」で、軍人・警察官以外の帯刀は禁止となり、多くの「刀鍛冶」が廃業へと追い込まれました。そんな刀鍛冶の中には、包丁や農具を手掛ける「野鍛冶」に転向した人がいたのですが、元刀鍛冶が手掛ける包丁やハサミなどの刃物類は、美しく、切れ味が良く、耐久性も良いなど品質が抜群。たちまち評判となり、「打刃物」(うちはもの)と区別して呼ばれ、包丁のブランドとなっていったのです。
包丁には、五箇伝の伝法を継承した包丁ブランドがあります。五箇伝の名刀と言えば、刀剣ファンにとっては、垂涎(すいぜん)の的。その五箇伝に属した名工の子孫が、廃刀令を持ちこたえて家業を続け、優秀な包丁を作り出したのです。
名工の子孫が経営する包丁店から名工にちなんでプロデュースされた包丁のブランドまで。刀剣ファン憧れの五箇伝のブランド包丁についてまとめました。
伊勢国(現在の三重県)で活躍した名匠「村正」の刀が切れ味抜群だったことを讃えて、東建コーポレーションがプロデュースし、誕生したブランドが「伊勢国村正」です。
刃の材質は、高級ステンレス「モリブデン鋼」または「ハイカーボンステンレス鋼」で、「伊勢国村正」の刻印が施されています。村正のように切れ味が良く、錆びにくいのでおすすめです。
所在地:〒460-0008 愛知県名古屋市中区栄3丁目35番43号
ホームページ:https://www.meihaku.jp/kitchen-knife-basic/meihakushop/
「燕三条」(つばめさんじょう)と呼ばれる新潟県燕市と三条市で作られているのが、「越後三条打刃物」。江戸時代から農具や和釘などの鍛冶が盛んでしたが、元刀鍛冶により高度な鍛造技術が伝承され、刃物を製造。
包丁は、強度が高く摩耗しにくいと、国内外から高い評価を得ています。2009年(平成21年)経済産業省 伝統的工芸品に指定。
「ぎへい」は、80年の歴史を誇る「義平刃物」(ぎへいはもの)が立ち上げた包丁ブランド。梨の肌のようにきめ細やかで美しい地鉄が特徴のぎへい梨地シリーズや極軟鋼の包丁がおすすめです。
「藤次郎」(とうじろう)は、燕市にある包丁ブランド。鋼系とステンレス系を複合した複合材刀身の制作が得意。多層鍛造構造のダマスカス鋼を採用した優美な刃文入り包丁は海外にも輸出され、高く評価されています。
福井県越前市で作られているのが、「越前打刃物」。刃を2枚重ねて叩く「二枚重ね」技法が特徴で、刃を薄く延ばすため、軽く薄くよく切れて研ぎやすい包丁が揃っています。1979年(昭和54年)経済産業省 伝統的工芸品に指定。
「龍泉刃物」(りゅうせんはもの)は、700年の伝統を誇る越前打刃物の伝統技術を享受するブランド。高級ステンレス刃物鋼作りに長け、幾層も積み重ねて鍛えることで生まれた独特の地鉄、龍泉輪(りゅうせんりん)が格好良いと評判です。