本兜は、鍛えの良い4枚の鉄板を矧(は)ぎ合わせて制作されています。兜鉢裏の後正中板(うしろしょうちゅういた)には、「万延元庚申年八月吉日・岩井安董作」の銘。吹返には、「四つ松皮菱紋」が据えられ、錣(しころ)は、黒漆を塗って上部を波形にした鉄板(板物)を5段、紺糸で素懸縅(すがけおどし)にしています。
前立には、立体的に作り込まれた「蓑亀」(みのがめ:甲羅に藻が生えた亀。長寿の象徴)。面頬(面具)も兜鉢と同様に、重量感のある鉄錆地で制作され、顎下には「岩井安董作」の銘が切られています。
「岩井安董」(いわいやすしげ)が属していた「岩井派」は、奈良に起源を持つ甲冑師集団。同じく奈良で起こった「春田派」と並んで古い歴史を有する一派として知られています。なかでも、「岩井与左衛門」(いわいよざえもん)が「関ヶ原の戦い」を前に、「徳川家康」の夢に出てきた「大黒天」を象った甲冑(鎧兜)を制作した逸話は有名です。