「鉄朱漆塗隆武頬」(てつしゅうるしぬりりゅうぶぼお)は、朱漆塗が印象的な「隆武頬」(りゅうぶぼお)です。
戦国時代に戦いが激しくなり、全身防御の志向が高まると、兜だけでは保護が難しい顔面を覆う面頬(めんぽお/めんぼお)が普及し、様々な意匠の物が作られました。
特に上級武家では、顎や頬だけでなく鼻も守る「目の下頬」(めのしたぼお)が流行。隆武頬は目の下頬の一種で、口を大きく開いて威嚇した「烈勢頬」(れっせいぼお)に比べ、やや控えめな表情が特徴と言えます。
両頬に付く細長い板と、顎から突き出た一対の突起はそれぞれ「緒便金」(おだよりがね)、「緒便疣」(おだよりのいぼ)と呼ばれ、兜の「忍緒」(しのびのお)を結び固定するときのガイドとして使う物。
喉を保護する「垂」(たれ)は、金箔押の板物5段を紺糸と白糸で交互に「毛引威」(けびきおどし:隙間なく威していく手法)にし、「裾板」(すそいた:最下段の板)に紅糸の「菱縫」(ひしぬい)を施します。
赤系の色は血液に通じ、生命や活力を連想させると言われますが、本面頬のように赤い面頬を着用した武士は、遠目からは血気盛んな若武者、または返り血を浴びた猛者に見えて敵を威圧したことでしょう。