本甲冑(鎧兜)は、金箔の「蓮」(はす)の「前立」が印象的です。蓮は仏教では仏の知恵と慈悲を表し、極楽往生の象徴と言われるほど品格の高い花。
兜の鉢裏、後正中には「明珍房宗」(みょうちんふさむね)の刻銘が入っています。
明珍房宗とは、戦国時代から江戸時代にかけて活躍した甲冑師。相州(現在の神奈川県)小田原に住み、1537年(天文6年)に寒川神社に所蔵された「武田信玄」が着用したと伝えられる甲冑(鎧兜)を作ったと言われる人物です。
兜は鉄錆地六十二間筋兜で、面具は鉄錆地総面、胴は黒漆塗鉄最上胴(くろうるしぬりてつもがみどう)で、草摺は八間五段。
敵の攻撃から顔を守る吹返部分には、金銅の透彫登雲龍(すかしぼりとうんりゅう)も入っています。所用していた武将は不明ですが、品格と威厳を感じる華やかな1領です。