本甲冑(鎧兜)は、金蒔絵が施された「頭形兜」(ずなりかぶと)と胴の前面に描かれた「鶴に乗る仙人」の蒔絵に特徴があるとても華やかな当世具足です。
鶴に乗る仙人とは、「王子喬」(おうしきょう)のこと。王子喬は、古代中国で霊王(周の王)の皇子と言われた人物で、白い鶴に乗り、笙(しょう:雅楽の笛)を吹きながら空中を飛翔する仙人になったと伝えられる神的存在。また胴の後面には、「車紋」らしい模様が描かれています。
この甲冑(鎧兜)の持ち主は誰であるのか分かりませんが、中国故事に精通する教養の高い人物で、車紋を使用する高貴な出自であることが想像できるのです。
なお、「仏腰取二枚胴」とは、仏像の胸に継ぎ目がないように、胴に継ぎ目がない二枚胴のこと。また「腰取」とは、胴の腰元部分だけ、他とは違う縅し方にして変化を付けた手の込んだ物を言います。袖には、赤、白、橙とカラフルな色々縅を使用し、佩楯(はいだて)は、赤と金色、草摺(くさずり)部分は緑の単色を配色。目立たないように、かなりの贅が尽くされた1領です。