火事装束
江戸時代
こんらしゃじすすきにおおかみししゅうかじしょうぞく 紺羅紗地ススキに狼刺繍火事装束/ホームメイト
本兜は、浮世絵にも通ずる絵画的なデザインの羽織をまとった火事装束です。
羽織の部分には、非常に緻密な刺繍ですすきに砂利、阿吽の狼を描き、狼の目には玉眼(ぎょくがん:目をより本物らしくみせるためにはめる水晶の板)の技法。牙や爪には銀金具を縫い付けた、丁寧な仕立てです。月夜にほえる狼の堂々とした姿は非常に迫力があり、口の鮮やかな赤色が濃紺の生地に映えます。
武具という枠を超えて、江戸の文化と芸術を存分に感じさせる大名道具で、その意匠性は現代においてもなお色褪せません。
兜は、四方白(しほうじろ:兜の前後左右に銀などを貼る装飾)の星兜(ほしかぶと:縦長の鉄板を鋲[びょう]で繋いで張り合わせた物)。眉庇(まびさし:額を守る庇[ひさし]状の部位)には雲龍の銅金具を据えています。補修の跡は見られません。
火事兜は、江戸時代に生まれた火事装束のひとつで、消火を専業とする火消が用いた物と、武家が警備のために用いた物の2種類が存在。前者は羽織、頭巾、手套(てぶくろ)とも木綿の袷(あわせ)仕立を刺子で縫いつぶした実用的な物ですが、後者は羅紗(らしゃ)、革などの羽織に家紋を施し、小型の兜や陣笠を付けた装飾的な威儀服です。本火事装束は、その特徴から武家が使用した物と推定されます。
本火事装束の羽織に施されている下がり藤紋は、「日本十大家紋」のひとつである藤紋の一種。藤紋は、公家の「藤原氏」(ふじわらうじ)の中でも、地方へ下って武士化した同氏の支流が多く用いた紋。植物の藤は、長寿と繁殖力の高さを象徴するため、室町時代頃から江戸時代にかけて、武家のあいだで大流行しました。