衛府太刀拵(えふだちこしらえ)はもともと奈良時代の武官が使用していた形式の拵ですが、のちに儀式等で使用する儀仗用の拵として装飾性が高められました。本拵は金粉を蒔き詰めた金梨子地の鞘に、桐紋と唐草の文様が描かれ上品です。
本拵に収められたのは、皇宮衛士(こうぐうえじ:宮中の護衛)専属の刀工に指定された森良近(もりよしちか)の刀。刀の鞘書(さやがき)には「昭和三年十一月御大禮ノ節佩刀 掌典」とあり、1928年(昭和3年)に行われた昭和天皇(しょうわてんのう)即位の礼で使用されたことが分かります。
昭和天皇は1921年(大正10年)から、大正天皇(たいしょうてんのう)のご病気に伴い摂政に就任。1926年(大正15年)に大正天皇が崩御されたため、天皇の位を受け継ぎました。即位の礼当日には、勲一等以上の者665名、外国使節92名他、2,000名以上が参列。式典では内閣総理大臣「田中義一」(たなかぎいち)が万歳三唱しました。
江戸東京博物館(えどとうきょうはくぶつかん)には、本拵と同様の意匠で、即位の礼の参列者が使用したという拵が所蔵されています。そのことから、本拵も、即位の礼で参列者が佩刀していた物と考えられます。