「短刀 朱銘 行光 本阿(花押)」は、「相州伝」(そうしゅうでん)の実質的な祖である「新藤五国光」(しんとうごくにみつ)を師匠に持つ行光の1振。行光は鎌倉時代末期に相模国(さがみのくに:現在の神奈川県)で作刀した刀匠であり、正宗の兄弟子にあたる名工です。「藤三郎行光」(とうざぶろうゆきみつ)の通称でも知られています。
本短刀の茎(なかご)には、表に行光、裏に本阿弥家第13代当主「本阿弥光忠」(ほんあみこうちゅう)の朱銘(しゅめい)があります。現存する行光の刀のうち太刀はすべて無銘で、在銘作は短刀に限られておりほとんどが内反り風の姿となっているのは時代の特色です。
寸法は長さ28.1cm、反り0.2cm。平造りで三つ棟、地沸(じにえ)は厚く、地景(ちけい)が働いており、帽子は浅く流れて先が丸く返ります。彫物(ほりもの)は表に素剣、裏は腰樋(こしび)と掻流し(かきながし)の添樋です。刃文(はもん)は小湾れ(のたれ)に互の目(ぐのめ)交じり。匂(におい)は深く、沸がよくつき、砂流し(すながし)や金筋(きんすじ)がかかるのは行光の特徴をよく表わしていると言えるでしょう。
作風からして師の国光ら相州刀工の作であることは相違なく、健全で優れた名品です。昭和50年10月29日に特別重要刀剣に指定されました。