平安時代頃に作刀されたと考えられる本剣は、身幅がやや広いものの先身幅が張っていない大振りな姿をしています。
板目肌と柾目肌が交じった鍛え肌はよくつんで地沸が付き、直刃調の刃文がほつれ、二重刃ごころがあるなどの特徴を持った「切刃造り」で、両側に刃を持った両刃の直刀です。切刃造りとは日本刀の形状を表す造込みの1種で、奈良時代に作刀された直刀に多く見られます。
刃の中心に特徴的な彫物があることから、実戦用ではなく、貴族の装身具、もしくは祭神具であると考えられますが、本剣に施された彫刻は大変珍しいことから、詳しいことは分かっていません。
平安時代以前の彫刻がある代表的な刀剣に、「四天王寺」(大阪府大阪市)所蔵で「聖徳太子」の佩刀として知られる「丙子椒林剣」(へいししょうりんけん)や「七星剣」などの直刀が存在。しかし、これらの刀剣や本剣の他に、樋(ひ:日本刀の刀身に彫られる細長い溝)以外の彫刻を持っているものはほとんどありません。
彫刻と造りの珍しさや優れた出来により、本剣は唯一の資料として歴史的価値が高く、1974年(昭和49年)10月3日に特別重要刀剣に指定されました。