本太刀(たち)は、12世紀の平安時代後期に備前国(現在の岡山県東部)で活動した刀工「正恒」(まさつね)が作刀した国宝の太刀です。
正恒は、平安時代後期の古備前を代表する名工ですが、正恒銘のある現存太刀には鎌倉時代初期と思われる作品も少なくありません。そのため、現在では正恒と称した刀工が数人存在したのではないかと推測されています。本太刀は刃長72.0cm、中心長14.5cm、腰反りが高くて踏張りが強いのが特徴。古雅の風が感じられて大変に美しいと高い評価を得ています。
備前の刀剣作りの特徴は、丁子文(ちょうじもん)を主体とした華やかな乱れ刃ですが、本太刀にはまだその作風は表われておらず、優美さが光っているのが特徴です。
本太刀は、1745年(延享2年)「享保の改革」(きょうほうのかいかく)などを実施した8代将軍「徳川吉宗」(とくがわよしむね)が将軍職を退く際に、尾張徳川家9代藩主の「徳川宗睦」(とくがわむねちか)に授けたという歴史を持つ太刀です。現在は、尾張徳川家の遺品などを集めた愛知県名古屋市東区「徳川美術館」で保管され、「徳川黎明会」が所蔵しています。