本短刀は、鎌倉時代後期に名工「正宗」(まさむね)によって制作されました。「庖丁正宗」(ほうちょうまさむね)と称される短刀は3振が現存し、いずれも国宝に指定されています。
本短刀は、「徳川家康」の遺品のひとつで、尾張徳川家に伝来しました。徳川家康の遺品を記録した「駿府御分物御道具帳」(すんぷおわけものおどうぐちょう)の中之御脇拵の部には、「ほりぬき正宗」と記載があります。
本短刀の刃長(はちょう)24.0cm、茎(なかご)は9.4cmで、刀身(とうしん)には剣(つるぎ)を透彫にし、鍬形(くわがた)を陰彫(かげぼり)するという大変珍しい彫刻が施されており、優れた技巧は他に例を見ません。3振の庖丁正宗のなかでも、特に大模様で姿も美しく、地刃共に健全な状態です。
江戸時代の名物刀剣台帳である「享保名物帳」(きょうほうめいぶつちょう)には、「尾張之天主より出る」との記録が残されており、一時期「名古屋城」(愛知県名古屋市中区)の天守に納められていたことが分かります。