「人間無骨」(にんげんむこつ)は、「織田信長」の家臣で「鬼武蔵」(おにむさし)と恐れられた猛将「森長可」(もりながよし)が愛用した十文字槍(じゅうもんじやり)のことです。十文字槍とは、槍穂(やりほ)に鎌刃が交差して十文字を形づくる鎌槍(かまやり)の一種。
17歳であった森長可がこれを用いて、敵の首級を27も挙げる奮迅の戦いぶりをみせたため、主君・織田信長はその武勇を高く評価しました。なお、人間無骨とは、人を斬ったときにまるで骨がないも同然のような鋭い切れ味を例えた言葉です。森長可が首を突き刺した槍・人間無骨を立てると、首が刃(やいば)を突き抜けて滑り落ちてしまったというほどの逸話を残す、恐ろしくも鮮やかな切れ味の名槍でした。
人間無骨の刃長(はちょう)は約37.5cm、鎌刃を含めた横幅は約35.7cm、また、槍穂と鎌刃の刀身(とうしん)の幅はどちらも約3.4cmであり、かなり重量のある槍です。茎(なかご)に見られる銘(めい)は、美濃国(現在の岐阜県南部)の名工として名高い2代目「和泉守兼定」(いずみのかみかねさだ)で、茎には作者銘が入れられています。さらに、槍首の表には「人間」、裏には「無骨」の文字が彫刻されました。
森長可の死後も、森家ではこの人間無骨を常に玄関に立てかけ、大名行列の際の一番道具として大切にされています。江戸時代後期の大名行列では、人間無骨の写し(うつし:複製)を用い、実物は居城内に保管。そののち、人間無骨は「第2次世界大戦」終結後に森家から出たとされており、現在は個人蔵です。また、人間無骨の写しは「赤穂大石神社」(あこうおおいしじんじゃ:兵庫県赤穂市)に現存しています。