本短刀(たんとう)は、15世紀に作刀されたとされる国宝の短刀で、「千代金丸」(ちよがねまる)、「治金丸」(じがねまる)と共に、琉球王国(現在の沖縄県)の王家「尚家」(しょうけ)に伝来した宝剣です。
本短刀は元々菜切り包丁(野菜を切るための包丁)であったとされ、琉球の農婦が赤子を切ってしまったという事件に使われたのがこの包丁でした。農婦は包丁で切るそぶりをしただけで赤子の首が切れてしまったと無実を主張。しかし、疑った役人は事実かどうかヤギに向かって切るそぶりをしたところ、本当に切れてしまったと言います。
この凄まじい切れ味から短刀として鍛え直され、北谷(ちゃたん:現在の沖縄県中頭郡北谷町)の領主が所持するようになりました。本短刀の「北谷菜切」(ちゃたんなきり/ちゃたんなーちりー)という号(ごう)は、この伝承が由来となっています。
北谷菜切は平造り(ひらづくり)で反り(そり)がわずかに付き、研ぎ減りによってカミソリのように鋭くとがった姿(すがた)が特徴です。また、本短刀には合口式(あいくちしき)の「青貝微塵塗腰刀拵」(あおがいみじんぬりこしがたなこしらえ)が付属しており、拵(こしらえ)の金具には、中国の影響を受けていた琉球の意匠である、唐花風の蓮華や火焔(かえん)風の葉が施されています。金具は金無垢で、「小柄」(こづか)と「笄」(こうがい)には琉球王府所蔵の証である「天」という文字が刻まれた豪華な拵です。現在、短刀と拵は「那覇市歴史博物館」(沖縄県那覇市)が所蔵しています。