本鍔は、鉄地に立体的な猛虎をあしらった鍔です。象嵌によって黄色い線で虎の皮模様が描かれています。形状は菊花形。荒海の波やうねるような雲も鋤出し彫(すきだしぼり:鍔の地肌を彫り下げて、文様を浮き彫りにする工法)で彫られており、迫力ある景色を作り出しています。
銘にある伊藤正乗とは、江戸の金工である伊藤家の八代目。弘化(1844~1848年)頃に活躍した幕末の金工です。伊藤家は江戸時代初期から金工家として活動していましたが、鍔専門で活躍が始まったのは江戸時代中期、天和(てんな:1681~1684年)頃の伊藤正長(いとうまさなが)からとされています。伊藤家は全国の鍔工にも影響を及ぼしながら幕末まで非常に繁栄しました。
本鍔は、日本美術刀剣保存協会により「特別保存刀装具」に指定されています。