作者である「井上奇峯」(いのうえきほう)は、出自がはっきり分かっていません。「井上真改」(いのうえしんかい)、もしくはその長子である「良忠」(よしただ)と同一人物であるという説、良忠と兄弟であるという説など様々な異説があります。しかし、近年では良忠により貞享3年(1686年)に切られた銘と奇峯の銘に共通点が見られることから、良忠と同一である説が濃厚です。
本刀は、鎬造り(しのぎづくり)で庵棟(いおりむね)、反りは浅く、中鋒/切先(ちゅうきっさき)の姿。帽子(ぼうし)は直ぐに丸、やや長く返ります。小板目肌(こいためはだ)に地沸(じにえ)が微塵に厚くつき、地景(ちけい)が細かに入った鍛え(きたえ)です。
刃文は中直刃(ちゅうすぐは)を基調として小互の目(こぐのめ)や小足(こあし)交じり、匂口(においぐち)深く、小沸(こにえ)が厚くつき、金筋(きんすじ)・砂流し(すながし)がかかります。
茎(なかご)は生ぶ。化粧(けしょう)がつき、表には「井上奇峯」の四字銘、裏には菊紋が切られその下に「天和三年二月日」の年紀があります。
本刀は、明るい鍛えで中直刃が基調となり匂口が明るく冴えるなど、井上真改風を示す地刃共に優れた出来映えであり、井上真改との親子関係が認められます。存作の少ない井上奇峯の作風を知る上で貴重な1振であり、年紀作であることもその資料的価値を高める一助となっています。平成26年10月16日、重要刀剣に指定されました。