本短刀(たんとう)を作刀した「初代政常」(まさつね)は、美濃国納土(みののくにのうど:現在の岐阜県関市)に生まれた刀工です。初銘は「兼常」(かねつね)、のちに「政常」と銘を改めます。「飛騨守氏房」(ひだのかみうじふさ)、「伯耆守信高」(ほうきのかみのぶたか)とともに「尾張三作」(おわりさんさく)に数えられる名工です。
本短刀は平造り(ひらづくり)で庵棟(いおりむね)。表には腰樋(こしび)と添樋(そえび)、裏には腰元に「君万歳」(きみばんざい)の文字彫(もじぼり)があります。鍛えは小板目(こいため)に地沸(じにえ)厚く付き、地景(ちけい)繁く入り、地鉄良好です。
刃文(はもん)は細直刃調(ほそすぐはちょう)で鋒/切先(きっさき)付近に小互の目(ぐのめ)乱れを交じえ、刃縁沸匂付き、刃中には繊細な金筋、砂流しが掛かります。帽子(ぼうし)は湾れ込んで先が尖り気味に掃きかけ返り、茎(なかご)は生ぶです。
年紀はありませんが、銘振りから1609年(慶長14年)以前の作と考えられます。裏の腰元に彫られた「君万歳」とは、健康長寿・子孫繁栄・武運長久などを願って、守り刀に刻まれた言葉です。