戦国時代の食生活 /ホームメイト

戦国時代の人々が送っていた食生活について、詳しくまとめました。
生きる上で欠かせない「食」ですが、過酷な戦国の世では何が食べられていたのでしょうか。
「戦国時代の食生活」では、戦国時代における武士のエネルギー源はもちろん、戦時に欠かせなかった食事、武士と庶民の食事の違いをご紹介しています。さらに、戦国三英傑をはじめとした人気の戦国武将と食のかかわりも掲載。好きな武将について、食生活の面から掘り下げられます。

戦国武将の食生活

戦乱の世を生き残るためには、しっかり食べなければならない。それを自覚していた戦国武将達は、食べることを決しておろそかにしませんでした。戦に勝つためだけでなく、家臣を満足させて忠誠度を保つために、敵と和睦を結ぶために、味方との交流を深めるために、「食」を目一杯活用したのです。

1563年(永禄6年)にポルトガルからやって来たイエズス会の宣教師、ルイス・フロイスは、イエズス会本部に宛てた報告書のなかで、当時の日本人の食生活について細かく触れています。「幼少期から2本の棒[箸]を使って食べる」「米を主食としている」「汁物[味噌汁]を好む」「魚は煮る、焼くだけでなく、生でも食べる」といったルイス・フロイスの記述からは、現代まで続く日本の食文化の基本が、戦国時代にはすでに確立していたことが分かります。

ビタミンB1たっぷりの黒米が、武士のエネルギー源

黒米にはビタミンB1などの栄養がたっぷり含まれている

黒米にはビタミンB1などの栄養がたっぷり含まれている

戦国時代の食事は、1日2食が基本でした。朝昼晩の1日3食という習慣は江戸時代中期以降に定着したもので、戦国時代は武士も庶民も「朝餉」(あさげ)と「夕餉」(ゆうげ)の2回食だったのです。

主なエネルギー源は米。なかでも現代の玄米に近い粗搗き(あらつき:ザラっとした質感を残す精米法)の「黒米」(くろまい)が、多くの人々の主食でした。

武士の場合、侍大将から足軽まで一律で1日あたり5合(約750g)の黒米が分配されたと言われています。カロリー換算すると2600kcal前後で、これは現代の成人男性における摂取カロリーの目安、2200kcalを上回る栄養価です。過酷な時代を乗り切るためには、これくらいのエネルギー量が必要だったということでしょう。

黒米の糠(ぬか:穀物の種皮)には、糖質をエネルギーに変えて脳の活性化を助けるビタミンB1が多く含まれています。米100gあたりのビタミンB1含有量を比べてみると、精白米が0.08mgなのに対して、玄米や黒米は0.4mg前後。ビタミンB1が不足すると集中力が低下し、イライラと怒りっぽくなり、疲れやすくなると言われており、そういった点でもビタミンB1の多い黒米のメリットは大きかったのです。パンなどと比べて消化される速度が遅く、腹持ちが良いのも粒食である米の長所で、血糖値の安定が兵の戦う意欲や体力維持の助けになりました。

武士は戦のない平時でも毎日5合の黒米を食べましたが、戦に出陣する際にはその倍に相当する1升(約10合:1500g。カロリー換算すると5000kcal前後)もの黒米を食べたと言われています。朝昼晩に各2.5合を食べ、残りの2.5合分は表面に味噌を塗って焼いた握り飯などにして非常食として携帯しました。

体を酷使して失われた塩分を、様々な味噌料理で補給

総重量が40kgを超える甲冑(鎧兜)を着て戦場を駆けまわるわけですから、戦時の武士は黒米以外にも多くのエネルギー源を必要としました。とりわけ重宝されたのが「味噌」。生きた酵母菌や乳酸菌、麹菌のほか、消化を助ける酵素群も多く含まれる味噌を一緒に食べることで黒米をスムーズに消化吸収、即時エネルギーに変換したのです。

サトイモの茎などで作られた芋がら

サトイモの茎などで作られた芋がら

体を酷使することで大量の汗をかき、塩分が不足すると、頭痛や倦怠感によって行動力が低下することがあるため、戦国時代の武士達は味噌を使った様々な非常食で塩分をこまめに摂取しました。

例えば、味噌を平たく伸ばして干し上げた「干味噌」(ほしみそ)。丸薬状に丸めて俵に詰めて戦地に持ち込まれた「玉味噌」(たまみそ)。

サトイモの茎などで作った縄を味噌汁で煮てから干して乾燥させ、腰に巻き付けて携帯した「芋がら縄」(いもがらなわ)。同じく干し大根やわらびなどを味噌汁で塩辛く煮てから干し固めて布袋に入れて保管、食べる際に水に浸して温めるという、現代のインスタント味噌汁の原型のような物までありました。

また、より直接的に塩分を摂取できる物として、3合の塩を水に溶かし、火にかけて固めた保存食の「堅塩」(かたしお)や、3年かけて水気を飛ばした塩を大栗ほどの大きさに丸めた携帯用の「塩丸薬」(しおがんやく)などもあったと言います。堅塩は大きめの保存食として陣中に保管され、塩丸薬は携帯用として各兵に配布されました。

近年、汗として失われる多くの水分や塩分を補給するための「塩分チャージタブレット」と呼ばれる錠菓が様々なメーカーから販売されるようになりましたが、堅塩や塩丸薬はその原点と考えて良いでしょう。戦が長期化して米が底をついた場合には、山菜などと一緒にこれらを舐め、飢えをしのぎました。

梅干のクエン酸で、疲労物質の生成を抑える

「梅干」も、戦時に欠かせない食物でした。梅干に含まれるクエン酸を主とする酸味成分に、武士達の体に溜まった疲労物質(乳酸など)の生成を抑え込む効果があるからです。陣中では種を取り除いて乾燥させた梅肉を丸め、丸薬状にして持参されることが多く、腹痛や頭痛を和らげる妙薬としても活用されました。

ただし、梅干はあくまでも非常時に摂取する「薬」。本当に困ったとき以外は食べることができないよう、布袋に入れて甲冑(鎧兜)に縫い付けられていたようです。「喉が渇いたときには梅干しを頭のなかで想像することで口に唾液を溜めよ」と説いた兵法書もあり、当時の梅干が貴重な食物だったことが見て取れます。人間だけでなく、馬の疲労回復にも有効とされ、長時間の移動で息を切らした馬に食べさせていました。

武士と庶民の食生活の違いは?

戦国時代になると、ポルトガル人やスペイン人の渡来によって牛肉などを食べる文化が少しずつ日本にも入ってきました。キリシタン大名の「高山右近」(たかやまうこん)は、陣中で牛肉鍋を兵達にふるまったと言われています。もちろん戦国時代以前の日本人が、まったく肉を食べなかったわけではありません。食べる物がなくなれば、移動用の馬や農作業用の牛を殺して食べるしかありませんでしたし、身分の高い武士達の会食には鶴や雉(きじ)、雁(がん)といった鳥の肉が並ぶこともありました。

戦国時代の身分の高い武士にとっての「ごちそう」は、なんと言っても魚です。なかでも鯉は「急流の滝を登って龍になる」という言い伝えが示すように、縁起の良い魚とされていました。海魚を海から離れた土地で食べる場合は、塩漬けや干物に加工した上で輸送されるのが一般的だったようです。

一方で、海に近い土地では先のルイス・フロイスの報告書にもあるように、室町時代の終わり頃から「刺身」が食べられるようになっています。盛り付けの際、何の魚か区別するために魚の尾ビレを身に刺していたことから「刺身」と呼ばれるようになったと言われています。

また武家社会では、「人を斬る」という言葉を連想する「切身」は縁起が悪いとされたため「刺身」と呼ばれるようになったという説もあります。細切りにした生魚を酢で和える「鱠」(なます)とは違い、大きめに切った魚の身に醤油を付けて食べる物で、有力な武家を中心に親しまれるようになりました。

では、武士以外の庶民はどのような食事を摂っていたのでしょうか? 戦国時代は江戸幕府以降のような明確な身分制度が設けられておらず、農民も戦時になると足軽として出陣していました。そのため、武士も農民も食事に関してはそれほど大きな違いがなかったようですが、農民の主食は粟(あわ)や稗(ひえ)、あるいは麦や「赤米」(あかまい)が多かったようです。当時の赤米は黒米よりも質が劣るとされ、黒米よりも手に入りやすかったからです。赤米にはデンプンの成分であるアミロースが多く含まれ、白米よりもパサパサしています。赤飯の起源とも考えられており、現代でも特に黒米より高価というわけでもありません。

以上のような時代背景や食文化の変遷を踏まえつつ、このコンテンツでは「織田信長」、「豊臣秀吉」、「徳川家康」の「戦国武将三英傑」、「武田信玄」や「上杉謙信」など名だたる武将達がどのような食生活を嗜好していたのか、戦国武将と茶湯の関係、戦国武将と酒の関係、戦国時代の食における南蛮文化の影響などを紹介していきます。

戦国武将と食

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