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恒次(つねつぐ)

天下五剣」(てんがごけん)と呼ばれる5振の名刀中に、「数珠丸恒次」(じゅずまるつねつぐ)と称される太刀があります。「日蓮上人」(にちれんしょうにん)の愛刀であり、作者は、「青江鍛冶」に属する刀工「恒次」。通常、流派名を冠して「青江恒次」(あおえつねつぐ)と呼ばれており、現在は、「本興寺」(ほんこうじ:兵庫県尼崎市)に所蔵されている名刀です。

青江鍛冶とは、備中国・万寿庄青江郷(ますのしょうあおえのさと:現在の岡山県倉敷市)を拠点に活動した刀工集団のこと。平安時代末期に興り、南北朝時代まで作刀に従事しました。青江鍛冶は作刀時期によって、①「古青江」(こあおえ)、②「中青江」(ちゅうあおえ)、③「末青江」(すえおあえ)の3期に分類されており、このうち古青江派の活動期は、日本刀の過渡期である、平安時代末期から鎌倉時代初期に相当します。

恒次は、この古青江派を代表する刀工です。古青江派で4代続いた恒次のうち、数珠丸恒次を作刀したのは、承元年間(1207~1211年)に活動した、古青江派「守次」(もりつぐ)の子と伝わる「初代恒次」。古青江派による作刀の姿は独特であり、山城刀や備前刀と比較して、極めて力感に富んでいます。

このうち恒次の作例には、反りが高く力強い太刀姿、小型で短い「小鋒/小切先」(こきっさき)に加え、「小板目肌」(こいためはだ)と「小杢目肌」(こもくめはだ)が交じりあった「縮緬肌」(ちりめんはだ)や、「澄肌」(すみはだ:刀身における地肌の一部で肌目が目立たず、澄んだ斑のように見える)といった、古青江派の特徴が顕著です。刃文は「」(にえ)付いた「小乱」(こみだれ)に「小丁子」(こちょうじ)が交じり、鋒/切先の刃文である「帽子」(ぼうし)には、「焼詰帽子」(やきづめぼうし)を採用。刃中の働きとなる沸に関しては、古青江派の中では少なく、この点が、恒次の特徴となっています。

また恒次は、82代天皇「後鳥羽上皇」(ごとばじょうこう)の「御番鍛冶」(後鳥羽上皇の命により当代の名工を集め、月番を定めて鍛刀させた制度)を務めたことでも有名。後鳥羽上皇は、大の日本刀愛好家であり、南北朝時代の歴史物語「増鏡」(ますかがみ)にも、「日本刀の専門家より優れ、日本刀の良し悪しを鑑定した」と記されるほどでした。室町時代の刀剣書「能阿弥本銘尽」(のうあみぼんめいづくし)には、恒次が5月の月番を担当していた旨が書かれています。

恒次の二字銘を切る作刀には、太刀銘の作例のみならず、刀銘の作例も出現していることから、複数の刀工が、恒次の名を称して作刀していたことが窺えるのです。実際に恒次のは、古青江派で4代、中青江派で2代続きました。なお、「北野天満宮」(京都市上京区)に所蔵される恒次の太刀は、4代目頃の作例と考えられています。

恒次(つねつぐ)が作刀した刀剣

備中国の地図

備中国の地図

「備中国」の刀工を見る;


正恒

正恒

備中国(びっちゅうのくに:現在の岡山県西部)は、大和国(やまとのくに:現在の奈良県)、山城国(やましろのくに:現在の京都府)、備前国(びぜんのくに:現在の岡山県)と並ぶ日本刀の生産地であり、鎌倉時代から南北朝時代にかけて、多くの名刀工を輩出しました。「正恒」(まさつね)もそのひとり。通常は流派名を冠して「古青江正恒」と呼ぶ。古青江の祖・則高の子とされるが、弟とする伝もあります。

作例は太刀のみ。腰反りが高く、踏ん張りが強く、鎌倉時代初期の豪壮な太刀姿を現在に伝える。地鉄(じがね)は小板目がつんで杢目がまじり、繊細な起伏が見られる縮緬肌(ちりめんはだ)が顕著。刃文直刃(すぐは)調に小乱・小丁子をまじえた作例が多く、鋒/切先の刃文となる帽子は小丸になる。銘は「正恒」と二字に切ります。

正恒

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