あなたが欲しいのは、どのような甲冑(鎧兜)でしょうか。生まれたばかりの赤ちゃんを祝うため、端午の節句用の甲冑が欲しいという人もいれば、実際に使用された歴史がある甲冑を所持してみたいという人、または自分の好きな武将が身に纏ったのと同じデザインのレプリカが欲しいという人など、きっと様々なことでしょう。あなたが希望する甲冑はどこに行けば購入できるのか。甲冑の販売について、詳しくご紹介します。
「甲冑」(鎧兜)という言葉は、「甲」が身体に纏う鎧(よろい)、「冑」が頭に被る兜(かぶと)という意味です。現在、販売されている甲冑には、大きく2つの種類があります。ひとつは、武士が所持していた「歴史がある本物の甲冑」、もうひとつは現代人が所有または着用するために制作された「新品の甲冑」です。
歴史がある本物の甲冑を購入したい場合は、「古物」を扱う専門店を訪問すること。1度でも所有された甲冑は、古物(中古品)の扱いとなり、古物は「古物営業法」により「古物商許可証」を持つ「古物商」でのみ販売されます。したがって、歴史がある本物の甲冑が販売されるのは、古物商が営む専門店。それは、「甲冑専門店」または甲冑を扱う「刀剣商(刀剣店)」となります。
甲冑専門店や刀剣商(刀剣店)が、本当に古物商の資格を持っているのかを判断するには、古物営業法により必須事項となっている「古物許可番号」が店内、またはホームページにあることを確認することです。つまり、古物許可番号が掲げられていないお店は、歴史がある本物の甲冑を扱うことはできません。古物許可番号が掲げられていないお店の商品は、偽物の可能性が高いため、購入は控えた方が良いでしょう。
他にも甲冑は、リサイクル店やリユース店、フリマアプリやインターネットオークションでも購入することができます。しかし、これらのお店では、店員さんに甲冑の知識があるとは言えず、あなたにも専門知識が少ない場合には、その商品は歴史がある本物の甲冑なのか、最近制作された中古の甲冑であるのか、真贋を見極めることは困難でしょう。したがって、歴史がある本物の甲冑を購入したいなら、甲冑専門店または甲冑を扱う刀剣商(刀剣店)をおすすめします。
甲冑が欲しいと思ったときに、気になるのが甲冑の相場でしょう。歴史がある本物の甲冑には、国や地方公共団体、一般社団法人が評価した「証書」が付属しています。これにより、甲冑の相場が決まると言えますが、国が指定した「国宝」、「重要文化財」、「重要美術品」や地方公共団体が指定した「指定(登録)文化財」は、とても価格が付けられないほど貴重な物のため、市場に出回ることはないと考えた方が良いでしょう。
したがって、相場が気になるのは、一般社団法人「日本甲冑武具研究保存会」が認定した証書「認定書」に基づく甲冑です。一般社団法人・日本甲冑武具研究保存会とは、甲冑を中心に武具の素晴らしさなどを伝え、保護している団体。一般社団法人・日本甲冑武具研究保存会では、甲冑に対して「重要文化資料」、「甲種特別貴重資料」、「特別貴重資料」、「貴重資料」、「保存資料」と5段階による評価を付け、認定書を発行しています。
甲冑武具審査会の審査結果と評価 | |
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重要文化資料 | 歴史的な資料として優れた美術工芸品 |
甲種特別貴重資料 | 重要文化資料に次ぐ重要文化資料候補の物 |
特別貴重資料 | 甲種特別貴重資料候補で、鑑賞度が高く資料として優秀な物 |
貴重資料 | 鑑賞・資料共にすぐれた物 |
保存資料 | 資料として保存すべき物 |
返却 | 資料的価値乏しき物、改造甚だしき物、または現代改造作品 |
重要文化資料、甲種特別貴重資料、特別貴重資料で評価されるのは、平安時代から江戸時代までの間に日本で制作された武具です。貴重資料と保存資料は、歴史のない現代に制作された物であっても、優れた甲冑であれば認定されています。
甲冑専門店と甲冑を扱う刀剣商(刀剣店)では、この5段階の評価に基づいて、甲冑の相場を決めているのです。甲冑の大体の相場は以下のように言われていますので、購入の際の目安にすると良いでしょう。
なお、こちらは甲冑専門店と刀剣商(刀剣店)の「販売価格」です。購入後に甲冑売却をする際の「買取価格」とは異なりますので、注意が必要です。
重要文化資料や甲種特別貴重資料では、同じ階級の甲冑であるにもかかわらず、販売価格に何百万円もの差が生じています。実は、次の条件を持つ甲冑は、高級品となるため高額なのです。
名前をよく知られた武将が身に纏った甲冑は、欲しい人が多いため、高級な価格で販売されています。例えば、「井伊の赤揃え」と恐れられた井伊家の朱漆塗の甲冑は、家臣が多かった分、甲冑が市場に出回り、高額で取引されています。
有名な甲冑師が制作した銘(めい)がある甲冑や人気流派の甲冑は高級です。甲冑ファンに人気が高いのは、各大名家で特徴のある「御家流」(おいえりゅう)の甲冑を制作した、「春田派」(はるたは)、「明珍派」(みょうちんは)、「早乙女派」(さおとめは)、「岩井派」(いわいは)、「雪下派」(ゆきのしたは)の5派です。
なかでも、春田派では「春田光信」(はるたみつのぶ)、明珍派では「明珍宗介」(みょうちんそうすけ)、「明珍信家」(みょうちんのぶいえ)、「明珍栄長」、「明珍宗廣」などが有名です。この他、人間国宝「牧田三郎」(まきたさぶろう)さんなど、銘がある甲冑は、高額となっています。
甲冑は武将の地位が高いほど、細かく丁寧な作業が施され、上質で上等に制作されていると言えます。下級武士用の甲冑よりも、上級武士用の甲冑の方が高級で、付属品も多いのです。
例えば、胴丸(どうまる)や腹当(はらあて)や腹巻(はらまき)は、当初は下級武士が使用した、粗末で簡素な甲冑でしたが、戦時に軽くて動きやすいことが分かり、兜や袖(そで)、籠手(こて)、臑当(すねあて)、佩楯(はいだて)を付属して重武装化することで、上級武士も使用するようになりました。したがって、胴丸や腹当や腹巻は、兜や袖、籠手、臑当、佩楯を付属することによって上級武士の甲冑と見なされるため、高級となります。
なお、室町時代後期に登場し、江戸時代に主流となった「当世具足」(とうせいぐそく)は、すべてが揃った甲冑という意味。当世具足の付属品が揃っていることが、高級品の条件となるので、当世具足の各部名称の図を参考に、これらが揃っているかどうかを確認してから購入しましょう。
人形店や工房店で販売されている新品の甲冑は、歴史がある本物の甲冑よりも、歴史がなく実用でもない分、安価となります。
例えば、五月人形の「兜飾り」(かぶとかざり:兜だけを飾る飾り)は30,000円から50,000円。「鎧飾り」(よろいかざり:鎧兜を飾る飾り)は、100,000円から500,000円です。素材はアルミニウムや真鍮(しんちゅう:銅と亜鉛の合金)が主に使用されています。
一方、実際に着ることができる等身大の甲冑は、素材が段ボールやプラスチック、樹脂材料など様々です。段ボール素材は約3,000円。プラスチック、樹脂材料の場合は50,000円から100,000円が相場です。
ただし、鉄や革、漆塗など伝統的な材料を用いて制作された本格的な甲冑は、数十万円から数百万円とかなり高額になります。工房店では、オーダーメイドの甲冑を制作依頼することも可能。素晴らしい出来映えの甲冑には、一般社団法人・日本甲冑武具研究保存会に審査を依頼して、貴重資料や保存資料の認定書を付属し、付加価値を付ける人もいます。
甲冑には、歴史がある本物の甲冑と新品の甲冑があることをご紹介しました。歴史がある本物の甲冑を購入したい場合は、特に次の点に注意が必要です。
甲冑の専門店と名乗っているお店では、必ず古物商の古物許可番号が店内やホームページにあることを確認しましょう。
欲しい商品が見つかったなら、次に証書があるかどうかを確認すること。証書がない場合は、歴史のない新品である場合やレプリカである可能性が高いと言えます。さらに言えば、その甲冑は盗品かもしれません。
どうしてもその甲冑が欲しいなら、お店の人に証書付きでないと購入できない旨を伝えましょう。歴史がある本物の甲冑であるならば、お店で証書を用意できるはずです。事件等に巻き込まれないためにも、念には念を入れて確認しましょう。
新品の甲冑を購入したい場合に気を付けたいのが、甲冑のサイズです。甲冑には定まったサイズは存在しません。特に、五月人形をインターネットで購入した場合、サイズを確認しなかったため、実際に届いた物が想像よりも小さかった。あるいは、鎧飾りは着ることができると思ったのにそうではなくてがっかりした。あるいは、サイズが大きすぎて、飾る場所を確保できなかったなど、確認を怠ったせいで、嘆いている方が見受けられます。
購入前にサイズを確認し、鎧飾りは着ることができるタイプなのか、それは子どもが何歳まで着ることができる大きさなのかをしっかりと確認することです。また、コスプレ用の甲冑も、素材の質やサイズがかなり異なります。着用するのは子どもなのか大人なのか、こちらも素材、サイズをよく確認してから購入しましょう。
甲冑専門店や刀剣商(刀剣店)ではない、人形店や工房店の場合でも、商品が安すぎる場合には、そのホームページ自体が詐欺サイトである可能性があります。
匠の技を必要とする精密な甲冑が、80%OFFなど法外に安く販売されることはありえません。代金の支払い方法でも、クレジットカード払いができず、銀行振り込みしか選べない場合は、詐欺である可能性が高いため、購入するべきではないでしょう。