「国宝」(こくほう)の日本刀と「御物」(ぎょぶつ)の日本刀、どちらの価値が高いと思いますか。一見すると、どちらの価値も高く、甲乙付けがたい感じがします。しかし、実は、その指定機関や管理方法が大きく異なるものだったのです。日本の文化遺産である「国宝」と「御物」の何が違うのか、その理由について、詳しくご紹介します。
「国宝」とは、歴史的にも美術的にも貴重で価値のある物として、法律によって保護される建造物、文書、美術品、工芸品などのことです。
1950年(昭和25年)に制定された「文化財保護法」に基づいて、国(文化庁:ぶんかちょう。文部科学省の外局)が指定した「重要文化財」のうちで特に優れた、国の宝のことを言います。
国宝という呼び方は、1897年(明治30年)に制定された「古社寺保存法」によって、初めて使用されました。また、1929年(昭和4年)に制定された「国宝保存法」では、6,847件が国宝に指定されましたが、1950年(昭和25年)の「文化財保護法」により181件に改められ、2023年(令和5年)現在では、1,136件となっています。
文化庁の分類では、日本刀は工芸品として区分。国宝の工芸品は254件で、2023年(令和5年)現在、国宝の日本刀は、122件です。
特に有名なのが、「天下五剣」(てんがごけん)の名刀と名高い「三日月宗近」(みかづきむねちか)、「童子切安綱」(どうじきりやすつな)、「大典太光世」(おんでんたみつよ)の3振。
名物(めいぶつ:「享保名物帳」に収載された日本刀)では、「有楽来国光」(うらくらいくにみつ)、「後藤藤四郎」(ごとうとうしろう)、「厚藤四郎」(あつとうしろう)、「へし切長谷部」(へしきりはせべ)、「会津新藤五」(あいずしんとうご)、「観世正宗」(かんぜまさむね)、「日向正宗」(ひゅうがまさむね)、「亀甲貞宗」(きっこうさだむね)などがよく知られています。
「御物」とは、天皇家(皇室)に伝来した、絵画、書跡、日本刀などの所蔵物のことを言います。
1945年(昭和20年)の「第2次世界大戦」の終戦後、皇室の資産は、原則としてすべて国有財産となりました。
また、1989年(昭和64年)に「昭和天皇」が崩御すると、相続に伴って、大部分の御物が国の所有となり、国庫に物納されたのです。これにより、1993年(平成5年)に「三の丸尚蔵館」(東京都千代田区)が創設され、国庫に物納された御物が三の丸尚蔵館に所蔵され、公開されるようになりました。
なお、御物は「文化財保護法」の対象外とされ、国宝などの指定はほとんどされていません。
三の丸尚蔵館に収められている御物の総数は、約9,800点です。なかでも、日本刀は数多くあると言われています。
特に有名なのは、天下五剣の「鬼丸国綱」(おにまるくにつな)をはじめ、「小烏丸」(こがらすまる)、「鶴丸国永」(つるまるくになが)、「一期一振」(いちごひとふり)など。「若狭正宗」(わかさまさむね)、「京極正宗」(きょうごくまさむね)、「会津正宗」(あいずまさむね)、「浮田志津」(うきたしづ)、名物「平野藤四郎」(ひらのとうしろう)も見逃せません。
国宝は法律によって保護され、重要文化財よりも優れていると価値付け、格付けされた物のこと。
また国宝は、国が指定した物であって国の所有物ではなく、所有者は宗教法人や法人、個人となります。
一方、御物は、価値を表す言葉ではなく、天皇家(皇室)の所蔵物を意味する名称です。慣例的に法律による保護はなく、価値を付けることができない評価基準を超越した文化財として扱われてきました。
また、国宝を指定し管理するのは、文化庁。国宝は、修理、管理するにあたり、国の補助を受けることができました。一方、御物を管理するのは宮内庁。御物は国有財産になったものの、修理などは皇室費によって賄われてきたのです。
このように、国宝と御物は、価値付け、所有者、管理する機関もすべて異なるため、簡単に比較できる物ではありません。
ただし、管理という点では例外がありました。それは、「正倉院」(しょうそういん:奈良県奈良市)の建物です。御物の正倉院を、世界遺産に登録するため、1997年(平成9年)に建物だけが「国宝」となりました。
これは、世界遺産に登録するためには、当該文化財が所在国の法律によって保護の対象となっていることが条件だったからです。それでも、中に収められている美術工芸品や歴史資料等は「御物」のままでした。
このように例外があり、国宝と御物の違いが分かりにくいことから、2018年(平成30年)に宮内庁の有識者会議で、「価値を分かりやすく示すべきだ」と提言がありました。これにより、御物も国宝や重要文化財に指定されるよう改められることになりました。
そこで、2021年(令和3年)、絵巻物「蒙古襲来絵詞」(もうこしゅうらいえことば)、「春日権現験記絵巻」(かすがごんげんけんきえまき)、狩野永徳(かのうえいとく)作「唐獅子図屛風」(からじしずびょうぶ)、伊藤若冲(いとうじゃくちゅう)作「動植綵絵」(どうしょくさいえ)、小野道風(おののみちかぜ/とうふう)作「屛風土代」(びょうぶどだい)の御物5点が、新しく国宝に指定されたのです。
また2022年(令和4年)、宮内庁と文化庁は、三の丸尚蔵館を2023年(令和5年)10月に宮内庁から「国立文化財機構」に移管し、同機構を所管する文化庁が、三の丸尚蔵館の収蔵品の管理を行う体制に改めると発表。このように、現在では「御物」も、国宝や重要文化財に指定される動きとなったのです。
国宝は、各宗教法人や法人、個人が所有していますが、東京国立博物館(東京都台東区)では最多の89件を所蔵しています。
国宝は、常設展や企画展などで不定期に一般公開されていますので、東京国立博物館のホームページで、展示・催し物の情報を確認すると良いでしょう。
また、御物は、宮内庁が管理して、三の丸尚蔵館に所蔵されていますが、三の丸尚蔵館は、2026年(令和8年)まで、新施設を建設工事中のため、現在は休館となっています。
ただし、他館にて「三の丸尚蔵館収蔵品展」という企画展が随時行われており、その中には日本刀も含まれているので、まずは、三の丸尚蔵館のホームページを確認してみましょう。
刀剣ワールド財団も、国宝の日本刀を所蔵しています。それは、名物有楽来国光(短刀 銘 来国光)です。織田信長の弟で、武士でも茶人でもある「織田有楽斎」(織田長益)が所持していたことから、名付けられています。
地鉄は、流麗精細な小板目肌。刃文は互の目(ぐのめ)交じりの大丁子乱れで、とても華やか。差表(さしおもて)に素剣(そけん/すけん:不動明王の化身である剣の図)が彫られているのが特徴で、身幅が広く、覇気があります。名古屋刀剣ワールドにて、ぜひ肉眼で見て欲しい1振です。