寺沢武一の人気キャラクターのひとり、天狗流3代目鴉天狗カブト。天狗抜刀・白虎剣(てんぐばっとう・びゃっこけん)が必殺技です。作者自身の代表キャラクター・コブラさながらに、妖剣・飛龍を通して虎となったエネルギーを片腕から放ちます。(■寺沢武一の刀剣キャラ⑧ 地雷屋白虎を右腕に宿す3代目鴉天狗カブトより)
【COBRA THE SPACE PIRATE】で知られる寺沢武一(てらさわぶいち)。同作の連載と並行して【BLACK KNIGHT BAT 黒騎士バット】、【鴉天狗カブト】も描きました。そこでは、斬らない描写が様々に編み出されています。
寺沢武一は、手塚治虫率いる手塚プロダクションへの作品応募がきっかけで手塚治虫のアシスタントを務めます。
短編で、第13回手塚賞の佳作を受賞後、読み切りをもとにした【COBRA SPACE ADVENTURE】(1978年~〔週刊少年ジャンプ〕他継続*のちに【COBRA THE SPACE PIRATE】に改題)が連載開始5年目に映画化・テレビアニメ化され、寺沢武一の最初の代表作となりました。
主人公の宇宙海賊コブラは賞金首を狙い宇宙の旅を続けます。武器は左前腕の義手に仕込んだ特殊な光線銃・サイコガンです。
寺沢武一はサイコガンについて、勝新太郎主演の映画【座頭市】シリーズ(原作・子母澤寛)に登場する仕込み杖が発想のもとにあったと明かしています。
サイコガンは日本人の銃作りの名匠・不知火鉄心(しらぬいてっしん)の作です。ちなみに勝新太郎は映画【不知火検校】で主役の盲目の按摩役を、映画【座頭市】シリーズに先駆けて演じています。
サイコガンは駆使される日々のなかで、ひびが入ります。
「…サイコガンはわしが作った銃の中で生涯をかけての傑作だ……」、「気をつけたまえ一度サイコガンにひびが入った時」、「それがサイコガンの限界だ」という不知火鉄心の言葉をコブラは思い出します。
コブラは新しいサイコガンを手に入れるため、不知火鉄心のいる日本を訪れます。
新しいサイコガンを手に入れるまで、コブラは日本刀を駆使するなどを経て、すでに亡くなっていた不知火鉄心に代わって、娘の不知火ゆう子から新しいサイコガンを受け取ることになりました。
コブラは伝説の海賊・ネルソンの秘宝を追い求める中で、惑星ザドスを訪れます。
ソード人の惑星です。ソード人は狩猟民族で人間以外の獲物を突き刺すことで生きています。じつは甲冑人間をあやつる剣こそが本体という生命体です。
コブラは軟禁されていた真の王ジーク王の甲冑人間となり、王の座を乗っ取っていたバベル王に立ち向かうことになります。その際、「剣を使ったことはあるのか」のジーク王の問いに「心配するなよ 宮本武蔵は全巻よんでるんだ」とウインクと共に粋なセリフを返しました。
コブラは、対立するギルド宇宙軍元帥・サラマンダーを倒す行動を起こします。
サラマンダーの基地エルラド教国を訪れると、そこではシドの女神像(じつは強力なレーザー光線砲を備えた衛星)を宇宙中に20,000基増設し、一気に宇宙を支配する計画が進行していました。すべての準備が整ったとき、「ハイル・サラマンダー!!」のかけ声の中で巨大な鎧武者がコブラの前に現れます。それがサラマンダーの表立った姿でした。
コブラは異次元レースに参加した際、戦国時代の日本と思われる場所にタイムスリップします。そこで白鷺城城主で長刀の使い手・伏姫と行動を共にします。
コブラ自身も時に長刀も使い、敵対する砂風魔三人衆と戦います。
【COBRA】が長期シリーズ化する中で寺沢武一は、剣を手にしたバット姫を主人公とした【BLACK KNIGHT BAT 黒騎士バット】(1985年〔週刊少年ジャンプ〕連載)を発表します。
【バット】は連載第1回で冒頭部に、いち早くコンピューターグラフィックス(CG)が取り入れられ、のちにフルCG化された実験作でもありました(1997年、ソフトバンク発行)。
17歳を迎えたバット・デュランは、生まれた星・星船を一目見ようと現代から秘密の井戸を通って異世界に訪れます。その星には、魔物の手から星を守るためにバットの母親が大きな剣・サンダーソードを突き刺していました。
けれども剣の効力は100年。期せずしてバット・デュランが訪れた百年祭に魔物が現れます。バット・デュランは生まれた星を守るため、王位継承の証となるサンダーソードを抜き、蘇った4銃士とともに魔物と戦います。
サンダーソードは剣台に刺すことで舵にもなり、バット・デュランは星船を治めていきます。
バットでは、石に突き刺さった剣が抜けたことで王位継承権を示したアーサー王伝説に、ルイス・キャロル【不思議の国のアリス】、アレクサンドル・デュマ【三銃士】などの世界観が取り入れられました。
続いて寺沢武一は、【鴉天狗カブト】(1987~1989年〔フレッシュジャンプ〕連載*当初【NINJAカブト】)を発表します。
戦国時代の日本を舞台に、天狗一族の生き残りであるカブトと闇の力を操る黒夜叉の頭領・黒夜叉道鬼との永遠の争いが描かれます。
同作は連載終了の翌年テレビアニメ化され、COBRAに次ぐ寺沢武一の代表作となりました。
鴉天狗カブトの物語が作られた背景には、伝奇SF小説ブームがあります。
当時、夢枕獏(代表作【キマイラ・吼】シリーズなど)、菊地秀行(代表作【魔界都市】シリーズなど)、荒俣宏(【帝都物語】)らが人気を博していました。
彼らのルーツ、半村良(代表作:【妖星伝】、【戦国自衛隊】など)、平井和正(代表作:【幻魔大戦】シリーズ、【ウルフガイ】シリーズなど)、山田風太郎(代表作【忍法帖】シリーズなど)なども見直されます。
そのうちのいくつかは同時期に角川春樹によって映画化もされていました(【戦国自衛隊】、【魔界転生】、【伊賀忍法帖】、【幻魔大戦】など)。
鴉天狗カブトの主人公、天狗の生き残りであるカブトは、妖剣・飛龍(ひりゅう)を台座から引き抜いたことで天狗流2代目の鴉天狗を継承します。
飛龍はカブトの父が鍛え上げ、血水で焼を入れました。飛龍は意思を持ち、鍔(つば)にある顔で話します。「わしは血が手に入らなくばわしを持つ者の血を喰らう」と語る魔性の剣です。
飛龍を手にしたカブトは、天狗流剣法八十八手円月風車(てんぐりゅうけんぽうはちじゅうはってえんげつふうしゃ)の秘太刀を使います。飛龍を振ることで5寸向こうを太刀風で斬る剣技です。
カブトは鴉天狗の継承者として四神(青龍・朱雀・白虎・玄武)を従えます。
その1神・地雷屋白虎(じらいやびゃっこ)は、虎鉄と打竜牙(だりゅうが)が愛刀です。虎鉄が折れたことで、刀匠で武器商人の白狼斎幻舟(はくろうさいげんしゅう)から業物・打竜牙(だりゅうが)を手に入れることになります。
「岩や鉄を斬らば真っぷたつに断ち割り刃こぼれひとつせず 人馬を斬らば刃の肌に血の痕をとどめぬ」と打竜牙は説明されます。そして、ふさわしい持ち主が手にすると竜の紋様が現れ、「オオオオオ ウオン」と鳴きます。
闇の力を操る黒夜叉の頭領・黒夜叉道鬼(くろやしゃどうき)は、カブトの父に地獄の底に封じ込められて以来、天狗一族が宿敵となります。
そんな黒夜叉道鬼は、白狼斎幻舟が鍛えた妖剣・女紋獣(にょもんじゅう)が愛刀です。女性の性を持つ女紋獣は、同じ鉄と同じ精気による男性の性を持つ打竜牙に会いたいと「オオオオン」と共鳴します。二刀一対の共鳴は林不忘【丹下左膳】から着想を得ています。
さらに、天狗流3代目鴉天狗カブトも描かれます。
父の残した妖剣・飛龍を受け継いだ3代目は四神を身体に宿します。右腕には地雷屋白虎が宿りました。
3代目カブトは飛龍を通して虎となったエネルギーを放ち、敵を倒します。天狗抜刀・白虎剣(てんぐばっとう・びゃっこけん)の剣技です。
黒夜叉道鬼は自身が従える四天王を3代目カブトに仕向けます。
その中のひとり、鎧武者姿の羅童(ラドウ)は背負った6本の剣・餓鬼道剣(がきどうけん)に命を封じ込める剣技を持ちます。刺された者は鍔の顔に吸い込まれます。
さらに黒夜叉道鬼は、降魔天星の呪法で闇の五光星を従えます。
天空では守護魔神だった五光星は地上に落ちて悪鬼神となります。天全星は黒エビに、天双星は沈没船に、天道星は巨木に、天忠星は鎧に、そして天義星は黒夜叉道鬼の愛刀・女紋獣に宿りました。
力を得た女紋獣は波紋状のエネルギーを放ち、カブトを追い詰めます。
寺沢武一はその後、青年月刊漫画雑誌の創刊号から連載を開始します(【ゴクウ】、【武 TAKERU】)。
【武】(1992年〔コミックバーガー〕連載)では、主人公が非情な忍者からさらに心を消し去った「刃者(はじゃ)」と称され、剣と拳を超える言霊を操り、賞金稼ぎをします。
同作は日本初ともされるマッキントッシュ・グラフィックスによるフルカラーCG漫画でCD-ROM化もされました。その後も寺沢武一は実写とCGを合成した実験作も発表しています(【GUNDRAGON】シリーズ)。
CGなど、たゆまぬ表現実験を続けた寺沢武一。刀剣描写では、サイコガン、サンダーソード、白虎剣、餓鬼道剣、女紋獣など一貫して斬らない表現を追求し続けました。