「模造刀」について根本的な定義はありませんが、一般的には日本刀の形をした金属製品で、刃の付いていない日本刀です。コスプレや演劇での小道具として用いられたり、床の間などに飾られたりするなど、本物の日本刀の「代役」として幅広く用いられている模造刀は、模造刀を取り扱っている商店やインターネット通販などで購入することが可能。近年、その人気が高まっている模造刀についてご紹介します。
「模造刀」は、本物の日本刀を模して造られた物。「玉鋼」(たまはがね)を刀身の原料とせず、主に亜鉛などのアルミニウム合金や、木、プラスチックなどで刀身が作られ、「刃が付いていない=切れない」ことに加え、「研ぐことができない=将来的にも切れない」用具です。
銃砲刀剣類所持等取締法(以下、銃刀法と言います。)第22条の4には、「模造刀剣類」について、「金属で作られ、かつ、刀剣類に著しく類似する形態を有する物で内閣府令で定めるものをいう。」と規定しています。
殺傷能力の高い銃砲刀剣類の所持等を規制して人の生命・身体を保護するという銃刀法の趣旨から、普通の人が観たときに、本物の日本刀であると誤認するおそれのある物については、模造刀剣類として携帯を規制したのです。
模造刀は、日本刀の形状に著しく類似している用具で、日本刀の特徴である刃文も存在しています。本物の刀剣・日本刀では、「土置き」をして「焼き入れ」を行なうことで刃文が作られますが、模造刀では刀身の表面に、クロムメッキ加工を施し、刃文が入れられるのです。
模造刀の刃文は、職人などによってヤスリで研削(けんさく:表面を滑らかにするために、砥石などで削ること)され、模様を付けられるのが一般的。このヤスリがけ作業で、直刃(すぐは)や小乱(こみだれ)、互の目(ぐのめ)など、多種多様な刃文を再現します。
また、模造刀であっても、刀身自体は鋳造(ちゅうぞう)されていることが多いため、刀身彫刻を入れることも可能。そのため、刀身彫刻が美しい名刀の模造刀も人気があります。
ただし、模造刀の柄(つか)や鞘などの拵(こしらえ)は刀身とは異なり、銃刀法の規制対象外であることから、本物と遜色のない仕様にすることが可能。そのため、模造刀として作成される拵であったとしても、所持者の好みやこだわりを示すこともできます。
模造刀は、本物の刀剣と同様に取り扱っている刀剣商で購入することが可能です。
模造刀を取り扱っている商店でも、模造刀を買うことができ、例えば東京「浅草寺」(せんそうじ)の仲見世にもお店があります。
なかには名刀を復刻した模造刀もあり、実際の店舗で実物を観た上で購入することが可能です。
模造刀を扱う商店が近くにない場合に利用したいのが、インターネット通販。
名だたる名刀や武将のシリーズ、さらには漫画などのフィクションに登場する1振まで、手軽に購入することが可能です。
歴史関係の雑誌の巻末広告などでも、模造刀が紹介されています。
「織田信長」の「義元左文字」(よしもとさもんじ)など戦国武将の愛刀や、新撰組副長「土方歳三」(ひじかたとしぞう)の「和泉守兼定」(いずみのかみかねさだ)など、幕末志士達の愛刀、さらには日本刀を主題にしたゲーム「刀剣乱舞」などに登場する「三日月宗近」など、歴史に残る名刀を模した1振がお手頃な価格で購入することが可能です。
また、名古屋刀剣博物館「名古屋刀剣ワールド」では、戦国三英傑が所用したと伝わる名刀や、有名武将、剣豪達の愛刀など、様々な種類の模造刀を販売。模造刀を手に取ってみてみたい、実際に買ってみたいという方におススメです。
模造刀の中で、最も安価なのはプラスチック素材の1振です。観光地の土産物店などで販売されているのを見かけたことがある方もいらっしゃるかもしれません。
こうした模造刀については、再現性が高いとは言えませんが、舞台や武将コスプレ用の小道具などに利用されています。
また、こうした安価な模造刀は、その刀身の形に木の板を切り抜くことで、模造刀を自作するためのベースにするという用途もあるのです。
合金、天然木、本鮫地を使用した模造刀は、刀身には天然木を使用し、表面にメッキ加工を施すことで、外見上は本物の日本刀と遜色ない仕上がりになっています。
ただし、強度や重量が考慮されていないため、実際の使用は不可。あくまでも観賞用の1振です。
最高級の模造刀と言えるのが、本物の日本刀に近い素材や部品を使った1振です。
こうした模造刀は、素材や部品の選び方、仕上げ作業まで職人の手によって行なわれています。特に刀身部分は職人が刀に焼き付けて仕上げ、刃文も職人の手によって描かれるなど、本物志向の1振です。
模造刀は刃物でも刀剣類でもありません。本体の刀身は亜鉛合金などのやわらかい素材が用いられており、仮に刀身を研いだとしても、刃が付くことはありません。そのため、一般的に模造刀は日本刀には該当しないという扱いであり、日本刀のように、都道府県教育委員会による許可や都道府県公安委員会への届出は不要です。
また、模造刀には刃が付いていませんが、刀身の先端は鋭く尖っており、重量もあるため、他者を傷付けてしまう恐れもあります。そのため慎重な取り扱いが必要です。
模造刀の所持に許可や届出が不要であると言っても、自宅等以外の場所での携帯(現に携えること)には注意が必要。気軽に持ち歩くと、軽犯罪法に抵触する可能性があります。
「正当な理由がなくて刃物、鉄棒その他人の生命を害し、又は人の身体に重大な害を加えるのに使用されるような器具を隠して携帯していた者」は罰(科料)を受けることになるため、注意が必要(軽犯罪法第1条第2号)。模造刀を持ち運ぶときには正当な理由が必要であり、運搬する際には、収納ケースなどを用いるのが一般的です。
模造刀の刀身のその表面はメッキで覆われているため、本物の日本刀に比べて、錆が付く心配をする必要はありません。汗などの水分が付いてしまった際には、乾いたやわらかい布で拭き取る程度で十分です。
その一方で、模造刀を手入れする際に、真剣の手入れに用いる「打粉」(うちこ)の使用は厳禁。打粉は砥石の粉で、刀身に付いた古い丁子油を除去するために、絹などの布に丸く包んで用いますが、模造刀の刀身はメッキ処理されているため、打粉を使うと傷が付いてしまったり、最悪の場合にはメッキ自体が剥がれてしまったりすることもあり、そこからボロボロに腐食してしまいます。
同様に、クレンザーなどの研磨洗剤も、模造刀の刀身に付いた汚れを除去するのには適していません。そのような洗剤を使った場合、刀身に傷が付いたりメッキが剥落したりすると、その下の合金が錆び、再生不可能な状態になりかねないのです。
そのため少し汚れが目立つ場合は、水を含まない「エチルアルコール」を、やわらかい布に少し付けて拭います。そのあとは、丁子油を含ませたやわらかい布で刀身や鍔を軽く払拭。このとき、あまり大量に油を付けると、刀身を鞘へ収める際に鯉口(こいくち)が緩むなど、鞘を傷める原因にもなるので注意が必要です。
木製・プラスチック製・アルミ製など、模造刀の素材によって処分方法が異なります。
また、複数の素材でできている場合、素材ごとに分解し、模造刀をごみ袋に入る大きさにすることが必要。その上で、自治体のごみ分別ルールにしたがって廃棄します。
一般的に、真剣を取り扱っている店舗では摸造品を扱っていません。そのため、模造刀の買取を行なっている刀剣専門店は、それほど多くはありませんが、真剣の売買を行なう傍らで、インテリア品や観賞用として買取や販売を行なっていることがあるのです。
また、リサイクルショップなどで買取を行なっていることも。名刀の模造刀や、人気漫画などに登場する模造刀に関してはオブジェとしての人気も高く、買取対象であることが多いと言われています。