近年の日本では、神社仏閣を参拝した証しにいただける「御朱印」がブームになっていますが、そのお城バージョンとも言える、「御城印」(ごじょういん)をご存じでしょうか。最近の戦国武将人気により、ゆかりのあるお城を巡る人達が増え、「登城証明」である御城印を集めることが、ブームの兆しを見せています。御城印について解説しながら、御城印という言葉を初めて聞いたという人にも分かりやすく、オススメの御城印のある日本全国のお城についてご紹介します。
日本全国における多くのお城で頒布(はんぷ)されている「御城印」(ごじょういん)は、その天守が国宝に指定されている「松本城」(長野県松本市)で、1990~1991年(平成2~3年)頃から始められたことが最初であると言われています。
松本城の御城印は「朱印符」(しゅいんふ)と称され、同城の城主を務めた「小笠原家」と「戸田家」、両家にまつわる意匠の朱印符が2種類用意されており、セットでの購入も可能です。
御城印をいただくことをここでは「購入」と表現しましたが、実はこの言葉には、「御朱印」と御城印が持つ意義の違いが表されています。御朱印は、寺社を参拝し、初穂料などを「納める」ことで初めて授与される、言わば神仏とのご縁を結んだ神聖な証し。一方で「登城証明」である御城印は少し毛色が異なり、観光地で押印できる記念スタンプと同じような意味合いがあるのです。
また御朱印は、事前に用意されている「書置き」(かきおき)の他に、主に宮司や僧侶などに直接御朱印帳に書いていただく、「直書き」(じかがき)の方式を採っているところもありますが、御城印は、そのほとんどが印刷された物をいただくようになっています。
このように御城印は、御朱印と見た目が似ていても異なる性質を持っているため、御朱印帳に貼り付けて保管しないようにしましょう。寺社で御朱印をいただく際、御朱印帳に御城印が混ざっていると、御朱印が授与されないこともあります。
約30年前に松本城から始まった御城印ですが、その当時は、御城印をいただけるお城はあまり多くありませんでした。
しかし、「真田幸村/真田信繁」(さなだゆきむら/さなだのぶしげ)の生涯を描いた2016年(平成28年)のNHK大河ドラマ「真田丸」(さなだまる)や、同じく「明智光秀」を題材にした2020年(令和2年)の「麒麟がくる」のヒットなどによって戦国武将がブームとなり、その居城や軍事拠点となっていたお城を訪れる人が急増。
さらには、御朱印ブームも追い風となり、天守のあるお城のみならず、城跡においても御城印をいただけるところが増加したのです。
なお、御朱印であれば、神社なら社務所(授与所)、寺院なら納経所(寺務所)で授与されることがほとんどですが、御城印の場合、城内はもちろんのこと、近隣の観光案内所や博物館などお城ごとに頒布場所が異なるため、お出かけ前に一度確認しておきましょう。
宗教的な意味合いがある御朱印に比べると、登城証明である御城印は、お城を訪れた記念となる側面があることから、他のお土産と同様、気軽に入手することが可能。
また、御城印の価格は100~300円ほどと比較的安価であり、はがき程度のサイズで持ち帰るのにも邪魔になりません。こういったハードルの低さにより、御城印集めを始める人が増えたと考えられているのです。
御城印には基本的に、登城したお城の名称だけでなく、歴代城主の家紋や花押(かおう)などをモチーフにした意匠が配されています。
もちろん、実際にお城を訪問し、そのなかで展示されている史料などを見学すれば、お城の由緒や城主となった戦国武将について知ることは可能ですが、御城印があればそれを見返すだけで、お城の歴史を窺えるのです。
例えば、赤瓦の天守が設けられていることで知られる「会津若松城」(福島県会津若松市)別称「鶴ヶ城」(つるがじょう)の御城印には、初代城主であった「葦名家」(あしなけ)の「丸に三つ引」を初めとする、歴代城主の8種類の家紋が押印されています。
そのため、この御城印からは城主が目まぐるしく代替わりを果たし、会津若松の地が激動の歴史を経ていたことが分かるのです。
ここまでは御城印の概要について解説してきましたが、実際に御城印集めを始めてみたいと思われた人も、いらっしゃるのではないでしょうか。そんな御城印初心者の皆さんにオススメしたいお城3城をご紹介します。
国宝に指定されている「彦根城」(滋賀県彦根市)は、「徳川家康」の重臣「徳川四天王」のひとりに数えられる猛将「井伊直政」を始めとする「井伊家」が居城としていたお城です。
こちらの御城印は「入城記念符」と呼ばれ、その最大の特徴は、用紙が鮮烈な朱色であること。
これは合戦の際に、井伊家当主とその軍勢が、「井伊の赤備え」と称される真っ赤な甲冑を着用していたことがモチーフとなっています。このようにカラフルな御城印は、他のお城ではあまり見られません。
さらには、井伊家の定紋(じょうもん:家々に伝わる家紋のうち、正式に用いられている紋章)である「丸に橘」や、旗印に施されていた「井桁」(いげた)の意匠、そして同家の「通字」(とおりじ/つうじ:ある家系で名前に代々用いられている字)である「直」の字が押印されています。
なお、彦根城の御城印は、同城の管理事務所で購入が可能です。
雲海に浮かぶ姿が美しいことから「天空の城」と称され、観光スポットとしても高い人気を博している「竹田城」(兵庫県朝来市)。
厳密に言うと城跡であるこちらでは、2019年(令和元年)11月より、御城印の販売を開始。
築城したと伝わる「山名家」の家紋「五七桐七葉根笹」(ごしちのきりななはねささ)、最後の城主であった「赤松家」の家紋「二つ引両に右三つ巴」(ふたつひきりょうにみぎみつどもえ)、両家(山名家・赤松家)の家紋が施された意匠という3種類の御城印が用意されており、バラ売りでもセットでも購入できます。
また、これらの頒布場所である城跡入口の料金収受棟、及び情報館「天空の城」では、2020年(令和2年)3月より、竹田城跡オリジナルの「御城印帳」も販売されました。茶色と赤の2種類があり、金色の文字が配された表紙からは、「日本100名城」に選定された竹田城の重厚な風格が感じられます。
なお、山城である竹田城跡は、例年1月4日~2月末まで閉山となりますが、この期間中でも御城印と御城印帳は購入可能です。
1993年(平成5年)、日本で初めてユネスコの世界文化遺産に登録された「姫路城」(兵庫県姫路市)は、真っ白な漆喰の城壁を有していることから、別名「白鷺城」(はくろじょう/しらさぎじょう)とも呼ばれています。
姫路城を含め、前述した彦根城や松本城など、5城の天守が国宝に指定されており、姫路城は5城のなかでは最後となる2020年(令和2年)2月に、御城印「入城記念書」を販売。
同城の「冬の特別公開」に合わせた期間限定での販売であったことに加えて、世界遺産や姫路城といった文字は、すべて姫路藩2代藩主「酒井忠以」(さかいただざね)が直筆した文字を抜き出して作られた、大変貴重な御城印であったため、こちらを買い求めようと多くの人が姫路城を訪れました。