「鬼滅の刃」(きめつのやいば)は、日本の漫画・アニメーション作品です。漫画の発行部数は1億部を突破し、2020年10月に上映された劇場版アニメーション「劇場版 鬼滅の刃 無限列車編」は、上映開始から3日で動員数342万人、興行収入46億円を超える大ヒットを記録しました。おもちゃやフィギュアなどの関連グッズも数多く販売されていますが、なかでもSNSなどで話題になったのが鬼滅の刃で登場する、「日本刀」をモデルにした武器「日輪刀」(にちりんとう)を再現したおもちゃや模造刀です。日輪刀のモデルである日本刀とはどのような武器で、どのような使い方をするのか。ロマン溢れる日本の武器日本刀についてご紹介します。
主人公の「竈門炭治郎」(かまどたんじろう)は、病没した父に代わって母や幼い弟、妹のために、炭を売って家計を支えていました。雪が降るその日も、大きな籠(かご)に大量の炭を入れて、ひとりで町へ赴きます。その帰りに、竈門炭治郎は「三郎」という老齢の男性から「日が暮れると鬼が出るから、うちに泊まっていけ」と言われたため、「鬼なんていないのに」と思いながらも三郎の言葉にしたがって宿泊しました。
翌日、竈門炭治郎は山の奥にある自宅へ帰る途中で、「血のにおい」に気付きます。胸騒ぎを覚えながら家に着いた竈門炭治郎は、母、弟、妹達の変わり果てた姿を目の当たりにするのです。息絶えた家族のなかで、唯一温もりが残っていたのが妹の「禰豆子」(ねずこ)でした。
竈門炭治郎は、禰豆子を背負って町の医者のもとへ急ぎますが、道中で突然、禰豆子が暴れ出します。そして、禰豆子は「鬼」の形相となって兄である竈門炭治郎へと襲い掛かるのです。竈門炭治郎は、禰豆子を止めようと抵抗しますが、その最中に「鬼殺隊」(きさつたい)の「水柱」(みずばしら)である「冨岡義勇」(とみおかぎゆう)と遭遇。
冨岡義勇は、「人食い鬼の血が体へ入った人間は、鬼になる」こと、そして「鬼となった人間をもとに戻す方法は、鬼であれば知っているかもしれない」ことを竈門炭治郎に伝えるのです。
作中に登場する鬼殺隊とは、「人食い鬼」から人びとを守るために構成された組織のこと。構成人員は数百名を超えますが、人食い鬼との戦いの末に命を落とす者も少なくありません。
鬼殺隊のなかでもトップクラスの実力を持つのが、「柱」(はしら)と呼ばれる人達です。
柱の9名 | |
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「水柱」(みずばしら) | 「冨岡義勇」(とみおかぎゆう) |
「蟲柱」(むしばしら) | 「胡蝶しのぶ」(こちょうしのぶ) |
「炎柱」(えんばしら) | 「煉獄杏寿郎」(れんごくきょうじゅろう) |
「音柱」(おとばしら) | 「宇髄天元」(うずいてんげん) |
「霞柱」(かすみばしら) | 「時透無一郎」(ときとうむいちろう) |
「恋柱」(こいばしら) | 「甘露寺蜜璃」(かんろじみつり) |
「岩柱」(いわばしら) | 「悲鳴嶼行冥」(ひめじまぎょうめい) |
「蛇柱」(へびばしら) | 「伊黒小芭内」(いぐろおばない) |
「風柱」(かぜばしら) | 「不死川実弥」(しなずがわさねみ) |
柱の特徴としては水柱なら「水の呼吸」、炎柱なら「炎の呼吸」などの「必殺技」を駆使して強力な鬼と戦うことが挙げられますが、こうした設定は子ども達の「ごっこ遊び」としても大人気なのです。
鬼殺隊が持つ「日輪刀」は、鬼を退治するための武器です。日輪刀のモデルは、日本で制作され、武器として戦場で活躍した「日本刀」。日輪刀は、日本刀同様に「柄」(つか)や「鍔」(つば)、「鞘」(さや)など、「拵」(こしらえ)と呼ばれる外装が使用されています。
刃物の金属部のことを「刀身」(とうしん)と言いますが、日輪刀の刀身の色は所有者によって様々。竈門炭治郎であれば「黒」、冨岡義勇であれば「青」など、それぞれの刀には明確な「色」が付いているのが特徴です。
なお、現実の日本刀も、制作した人によって刀身に現れる「刃文」(はもん)と呼ばれる模様が異なる他、日輪刀ほどではありませんが、刀によっては「光に反射したときの刀身の色」が異なる場合があります。通常の刀は、光にかざして観たとき、その光が反射して刀身は「白っぽい色」に見えるのが一般的です。
一方で、「名刀」と呼ばれる刀になると、白ではなく「青っぽい色」に見えることがあります。その理由は、刀の原材料に使用されている鉄や鋼の配合量が関係しているため。日本刀は、制作された地域や制作者の流派によって、原材料に使われる鉄や鋼の量が異なります。
また、日本刀の形に仕上げる工程なども刀工(とうこう:刀鍛冶のこと)によって違うため、刀身にその個性が表れるのです。
刀身のなかでも、実際に物を切ることができる部分を「刃」(は)と言います。日本刀に限らず、包丁やはさみなど、刃物には必ずこの刃が付いており、定期的に研ぎ直せば切れ味を落とさずに使い続けることが可能です。
「そうは言っても、日本刀は数百年前に作られているのだから、さすがに物を切るのは難しいのでは」と疑問に思うかもしれません。
文化財として価値が高い日本刀を使って「試し切り」するのは確かに難しいですが、日本刀も「刃物」の一種なので、どれほど古い日本刀であっても、しっかりと手入れをすれば物を切ることはできるのです。
日本刀は、漫画やゲームに登場する際には日輪刀のように「最強の武器」として活躍することが多いですが、本来は弓矢の矢が尽きたり、槍(やり)が折れたりした場合に使われる「サブ武器」でした。その種類は、大きさによって「太刀」(たち)と「打刀」(うちがたな)に大別されます。
太刀は、主に馬に乗った状態で使用していた刀で、平安時代から室町時代前期まで使用されていました。太刀は、一般的に想像される刀より大きいため、腰帯に差して持ち歩くことはできません。
そのため、「太刀緒」(たちお)と呼ばれる紐や革などを使って、腰からぶら下げて携帯していました。太刀より小さい日本刀のことを打刀と言います。打刀は、徒歩による斬り合いで使用される日本刀で、室町時代中期から幕末時代まで使用されました。
持ち歩く場合は、腰帯に差して携帯します。日輪刀のモデルとなっているのはこの打刀の方であり、鬼滅の刃だけではなく、多くのフィクション作品で登場しますが、現実の日本史のなかで打刀が大活躍するのは意外にも幕末時代になってからです。
「新選組」や「幕末志士」など、著名な組織・団体で活動していた人物達は、いずれも「名刀」(めいとう)と呼ぶべき日本刀を所持していました。優れた刀を作るのは、鬼滅の刃で登場する刀鍛冶「鋼鐵塚蛍」(はがねづかほたる)や「鉄穴森鋼蔵」(かなもりこうぞう)のような優れた腕前を持つ刀工です。日本刀の通称や号には、人の名前が入っていることがあります。
そして、その多くは、制作者である刀工の名前です。刀工は、自身が制作した刀に「銘」(めい)と呼ばれるサインを入れるため、そのサインがそのまま日本刀の名称となっています。
日本刀に詳しい人なら、日本刀を用いての「100人斬り」は現実的ではないと言うことを知っているかもしれません。100人斬りとは、次々と人を斬っていくことを言い、切れ味が鋭い最強の日本刀の良さや、使用者の剣術の腕前を示すエピソードのこと。
100人の部分は、フィクション作品によって数字が変化しますが、「日本刀を使って何人もの敵を切っていく」と言うシーンは、視聴者に強烈な印象を与えるため、国内外問わず「日本刀は最強の武器」と言うイメージを与えました。
そして、その一方で「日本刀は、人を数人切ると脂が付いたり、刃こぼれしたりして、すぐに人を切れなくなる」と言う説があり、多くの人はこの説を信じています。
江戸時代、囚人を使った「日本刀の試し切り」を行なった人がいました。その人の名前は「山田浅右衛門」(やまだあさえもん)。山田浅右衛門は、囚人の遺体を重ねて、どの部位をどれだけ切ることができるか「試し切り」をしました。
最も切れ味が良かった刀では、「7人の胴体を切った」と言う記録が残されています。
現代においてはテレビ番組などで最新の科学や技術を駆使して「日本刀の切れ味」に関する実験が行なわれることも。過去には、試し切り用の「巻き藁」を1,000本用意して、剣術の達人がどれだけ切ることができるか、ギネスに挑戦するという企画が行なわれました。
このとき、剣術の達人は約36分かけて、1,000本の巻き藁をすべて切ることに成功。見事にギネス新記録を樹立しています。山田浅右衛門の試し切りや、剣術の達人によるギネス挑戦などの逸話から分かることは、「日本刀の切れ味は、切る環境や試し切りを行なう人の腕前によって、結果が大きく変わる」ということです。
一説によると、「日本刀は数人切っただけで切れなくなる」という噂が流れるようになったのは、「未熟な腕前の人が、悪条件のなかで試し切りを行なった結果の言い訳」が広く浸透したからではないかと言われています。
鬼滅の刃の新たな聖地として注目を集めるのが、島根県仁多郡奥出雲町に実在する「鬼が刀の試し切りを行なった」と言う伝説の岩「鬼の試刀岩」(おにのしとういわ)です。
鬼の試刀岩は、鬼滅の刃の聖地として知られる奈良県奈良市の「天石立神社」(あまのいわたてじんじゃ)にある「一刀石」と同様に、真ん中から真っ二つに割れているのが特徴。
その名称に「鬼」が付くという共通点から鬼滅の刃ファンの間で話題になっています。
日本刀は、武器ではなく「美術品」として存在しているため、本物を観たい場合は博物館や美術館、神社、寺院、お城などの施設へ行くと観ることが可能です。
施設によっては、本物の日本刀と同じ大きさ、重量の「模造刀」(もぞうとう:本物そっくりに作られた、レプリカの刀)を手に取って、その重さなどを体験できる「体験コーナー」を設けているところがあったり、「鑑賞会」などで実際に本物の日本刀を間近で鑑賞できたり、日本刀が好きな人にはたまらない企画やイベントが開催されているため、事前に調べてから訪れることをおすすめします。
日本刀は、実際に「物を切る」ことができる美術品です。「日輪刀のように、日本刀で物を切ってみたい」という方におすすめなのが「居合術/抜刀術」(いあいじゅつ/ばっとうじゅつ)。
居合術(抜刀術)とは、日本の伝統的な武道である「古武道」の一種で、鞘に収められた刀を素早く抜いて目標を切り捨てる「居合切り」を行なう剣術のこと。居合術(抜刀術)の道場へ行くと、巻き藁(まきわら)を切るための特訓をすることができます。
しかし、そうした道場へ入門したからと言って、すぐに真剣(しんけん:実際に物を切ることができる刀剣)を扱えるわけではありません。剣術道場は、何百年と続く由緒ある「剣術を極めるための道場」です。各地にある道場では、流派ごとに作法や技があり、そうした動きを覚えるにはまず体力、筋力、姿勢など、基本的な体作りが必須となります。
また、真剣は扱い方を間違えると、稽古中に怪我を負ってしまう恐れもあるのです。そのため、もしも剣術道場へ通う場合は、「かっこいいから」という理由だけではなく、「剣術を極めたい」や「精神力を鍛えたい」など、具体的な目標を持つことが欠かせません。
なお、道場によってはインストラクターによる安全指導のもと、実際に巻き藁を切ることができる体験コースを用意しているところもあるため、入門する前に、居合切りがいかに難しいのかを体験してみるのもおすすめです。