バトル系のアニメや漫画などで必ず登場する武器と言えば「刀剣」です。細身で美しい曲線を描く「日本刀」は、「最強の武器」として描かれることが多いのが特徴。また、刀剣が登場する作品が人気になると、子ども達の間では「ごっこ遊び」が流行する他、大人のファン向けに「模造刀」が作刀されることも。ここでは、日本で流行した漫画やゲーム作品に登場した刀剣の概要と、実際にどのような刀剣ブームが起きたのかをご紹介します。
「るろうに剣心」は、1994年(平成6年)から1999年(平成11年)にかけて「週刊少年ジャンプ」で連載していた、漫画家「和月伸宏」(わつきのぶひろ)氏による漫画、及びそれを原作とするメディアミックス作品。
本作は、「るろ剣」の愛称で知られており、90年代後期の週刊少年ジャンプの看板作品として有名です。また、漫画だけではなく、アニメや実写映画などで話題になったことから、幅広い世代から人気を集めています。るろうに剣心は、明治時代の日本が舞台となっており、物語のなかでも多くの刀剣が登場。
なかでも、主人公の「緋村剣心」(ひむらけんしん)が使用しているのが「逆刃刀」(さかばとう)と呼ばれる特殊な刀剣です。逆刃刀は、通常の刀剣と異なり、実際に物を切ることができる「刃」と、物を切ることができない「峰」(みね)とも呼ばれる「棟」(むね)が、逆になっているのが特徴。
緋村剣心は、物語内では朗らかで争いを好まない性格で描かれていますが、かつては「幕末最強」と謳われた伝説の「人斬り抜刀斎」(ひときりばっとうさい)として名を馳せていました。しかし、明治維新に入る前に起きた不幸な事故をきっかけに、「不殺」(ころさず)を誓い、逆刃刀を使用するようになったのです。
逆刃刀は、通常の刀剣よりも作刀が難しいと言われていますが、2019年(令和元年)に岐阜県関市の現代刀匠「尾川兼國」(おがわかねくに)氏が、作中に登場する「逆刃刀 真打」(さかばとう しんうち)と呼ばれる刀剣を完全再現したことで話題になりました。本刀は、愛知県犬山市にある「博物館明治村」が尾川刀匠へ依頼したことで作刀された刀です。
本刀が一般公開された際には、原作に忠実に作られた逆刃刀を一目観ようと、多くのファンが博物館明治村へ訪れました。なお、逆刃刀はその形状から実用性がほとんどないと推測されているため、フィクション作品でしか観られない刀剣と思われていましたが、実は逆刃刀に近い形状の刀剣は現実にも作刀されています。
日本刀が直刀から弓なりに反っている「湾刀」(わんとう)へと移行する過渡期に作刀されたのが「小烏丸」(こがらすまる)と呼ばれる、両刃と片刃が入り混じった平家伝来の宝刀。小烏丸は、刀身の中央から鋒/切先(きっさき)までを両刃、反対の柄(つか)寄りが片刃となる「鋒/切先諸刃造」(きっさきもろはづくり:別名[小烏丸造り])となっており、現在も「御物」(ぎょぶつ:皇室の私有品)として現存しています。
また、2013年(平成25年)には、千葉県白石市の旧家から、刃と棟が逆になった小刀が発見されたことが話題となりました。この小刀の鞘(さや)には、笹針(ささばり)と呼ばれる馬具の一種が一緒に入っていたことから、馬の蹄(ひづめ)を削るために作刀したのではないかと推測されています。
「BLEACH」は、2001年(平成13年)から2016年(平成28年)にかけて週刊少年ジャンプで連載していた、漫画家「久保帯人」(くぼたいと)氏による漫画、及びそれを原作とするメディアミックス作品。本作には、「斬魄刀」(ざんぱくとう)と呼ばれる特殊な刀剣が登場します。
斬魄刀とは、物語に登場する「死神」が武器として用いる刀剣のこと。斬魄刀で「虚」(ほろう)と呼ばれる悪霊を斬ると、その悪霊を浄化し、地獄へと送ることができます。
斬魄刀は、所有者自身の魂をもとに形状や能力が決定しますが、能力を開放していない状態だと通常の日本刀と同じ形状をしているのが特徴です。過去には、「斬魄刀票」、通称「斬魄刀人気コンテスト」が週刊少年ジャンプ誌上で開催されました。
この人気投票は、斬魄刀だけではなく、「各種武器」や「技」、「体の一部」、「叫び声」なども投票の対象とされていましたが、上位には各キャラクターの斬魄刀が多数選出。物語で大活躍した斬魄刀が、いかにファンの人気や関心を多く集めていたかが分かります。
「ONE PIECE」は、1997年(平成9年)から週刊少年ジャンプで連載している、漫画家「尾田栄一郎」(おだえいいちろう)氏による漫画、及びそれを原作とするメディアミックス作品。
本作は、「ワンピ」の通称で知られており、2015年(平成27年)には「最も多く発行された単一作家によるコミックシリーズ」として、ギネス世界記録に認定されました。個性豊かなキャラクターが登場する本作は、海賊達が「ひとつなぎの大秘宝[ワンピース]」を巡って熾烈なバトルを繰り広げるため、様々な武器や能力が登場します。
なかでも、主人公「モンキー・D・ルフィ」が船長を務める「麦わらの一味」で「剣士」として活躍する「ロロノア・ゾロ」の戦闘スタイルは、非常に独特。両手だけではなく、口にも日本刀をくわえる「三刀流」の剣術使いであり、その腕前は達人級です。
ロロノア・ゾロの刀には、「和道一文字」(わどういちもんじ)や「三代鬼徹」(さんだいきてつ)、「秋水」(しゅうすい)など、格好いい名称が付けられていますが、これらの名称の由来は実在した名工や名刀から来ていると推測されます。
例えば、和道一文字のモデルとなったのは、平安時代~室町時代に実在した刀鍛冶の一派「一文字派」(いちもんじは)が作刀していた刀。また、「三代鬼徹」は江戸時代中期に実在した刀工「虎徹」(こてつ)の刀をモデルにしていると推測されており、これらの刀剣は模造刀として販売されています。
「戦国BASARA」は、日本の戦国時代を舞台としたアクションゲーム、及びそれを原作とするメディアミックス作品。2005年(平成17年)に発売されて以降、ゲームに登場する「伊達政宗」や「真田幸村」などの著名な戦国武将の人気に火が点き、特に若い女性の間で、武将達のゆかりの地を訪れる「聖地巡礼」が流行しました。戦国BASARAはアクションゲームであるため、各キャラクターは刀剣や槍などを使用して敵を撃破します。
なかには、その武将が実際に所有していたと言われる刀剣をモデルにした武器も存在。例えば、伊達政宗の武器「景秀」(かげひで)は、伊達政宗が「文禄の役」・「慶長の役」で朝鮮へ出兵した際に使用したと言われる「黒ん坊切景秀」(くろんぼきりかげひで)がモデルになっています。
「上杉謙信」であれば、実際に所有していたと言われる「小豆長光」(あずきながみつ)、「織田信長」であれば「へし切長谷部」(へしきりはせべ)をモデルにした「国重」(くにしげ:国重は、へし切長谷部を作刀した刀工)と言う武器をそれぞれ使用しているのが特徴です。ゲーム内で登場した刀剣は、キャラクター同様にファンからは高い人気を集め、模造刀の他、ネックレスなどのアクセサリーのデザインにも用いられました。
「刀剣乱舞」は、2015年(平成27年)に配信が開始されたブラウザゲーム、及びそれを原作とするメディアミックス作品。現在まで続く「平成の刀剣ブーム」の火付け役として知られており、刀剣乱舞とコラボした地域や施設は毎回大盛況となる他、刀剣関連の書籍に重版がかかるなど、社会現象になるほど人気を集めています。
実在する(実在した)名刀を「イケメン」に擬人化することで、特に若い女性から高い支持を集めており、ゲームやアニメ、舞台などのメディアミックス作品を通して日本刀に興味を持ったファンも少なくありません。
ゲームに登場する擬人化されたキャラクターは、「刀剣男士」(とうけんだんし:刀剣男士はニトロプラスの商標)と呼ばれ、それぞれのキャラクターには多くのファンが付いています。また、刀剣男士達の性格は、モデルとなった刀の逸話や、その刀の所有者の伝説などが反映されているのが特徴。そのため、刀剣乱舞が好きな女性ファン達がどのような経緯で、どのような所有者のもとへ渡ったのか、その背景を調べることがファン活動の一環となっています。
過去には、インターネット上で資金の提供を呼びかけ、個人の活動や施設の修復、復元などを支援するサービス「クラウドファンディング」で、失われた名刀を復元、再現すると言う企画が立ち上がり、「蛍丸」(ほたるまる)や「石切丸」(いしきりまる)などの名刀が復元されました。
「鬼滅の刃」は、2016年(平成28年)から2020年(令和2年)まで週刊少年ジャンプで連載していた、漫画家「吾峠呼世晴」(ごとうげこよはる)氏による漫画、及びそれを原作とするメディアミックス作品。コミックスのシリーズ累計発行部数が電子版を含めて1億5,000万部を突破。
また、「劇場版 鬼滅の刃 無限列車編」は、興行収入384億円を突破して「日本歴代興行収入第1位」を樹立するなど、原作漫画の連載が終了しても、なお人気を集める話題作として知られています。鬼滅の刃で使用される武器は、「日輪刀」(にちりんとう)と呼ばれる特別な日本刀です。日輪刀は、「猩々緋砂鉄」(しょうじょうひさてつ)、及び「猩々緋鉱石」(しょうじょうひこうせき)と呼ばれる鉱石を原料にして作られており、所有者によって刀身の色が変化するため、「色変わりの刀」とも呼ばれています。
敵である不死の「人喰い鬼」の弱点は「日光」、そして「日輪刀で頸[くび]を斬り落とされること」。そのため、主人公である「竈門炭治郎」(かまどたんじろう)が所属する、鬼を退治する特殊部隊「鬼殺隊」(きさつたい)では、部隊員がそれぞれ個性豊かな日輪刀を所有しています。
日輪刀は、鬼を倒すための特別な操身術「呼吸法」を行うことで、最大限の性能を発揮することが可能。各キャラクターが使用する特徴的な呼吸法は、子ども達の「ごっこ遊び」としても大流行しました。そして、日輪刀はおもちゃや模造刀としても作刀されるほどの人気ぶり。
子どもの「ごっこ遊び」だけではなく、大人の本格的なコスプレ用の道具としても利用されています。この他に、鬼滅の刃をきっかけにして起きたのが、若い世代を中心とした空前の「居合道・剣道ブーム」。鬼殺隊のメンバーに憧れを抱いた人達が、各地の道場へ問い合わせたり、実際に入門したり、様々な形で刀剣ブームが展開しました。