アドベンチャーゲーム【ふぁみこんむかし話 新・鬼ヶ島】(1987年〔パックスソフトニカ〕〔任天堂〕開発・〔任天堂〕発売)。プレイヤーは男女コンビを操作し、日本の昔話に基づく世界を冒険。物語の最後には竜退治が待つ。西洋を舞台にした竜退治を描くロールプレイングゲーム(RPG)が大流行するなかで発表された和風作。
(■NHK大河ドラマ初の戦国武将主人公は豊臣秀吉より)
家庭用テレビゲーム機は、1980年代中盤から大流行します。そのとき、スポーツ(競技)ゲーム、アクション(動作)ゲーム、シューティング(射撃)ゲームに加え、ロールプレイングゲーム(RPG)が大人気となります。プレーに長時間を要するRPGは、セーブ機能の技術発展によって家庭用テレビゲーム機でも可能になりました。RPGでは、刀剣が最後の敵(ラスボス)を倒すのに不可欠な存在となっています。
日本初の家庭用テレビゲーム機は、野球盤を大ヒットさせ、ボードゲームメーカーでもある玩具メーカーが発売した「テレビテニス」です(1975年〔エポック社〕)。その2年後、創業時は花札とトランプの玩具メーカーによる「カラーテレビゲーム15」が続きました(1977年〔任天堂〕)。これらではゲームソフトは本体に内蔵されました。
同じ頃、ゲームソフトをカートリッジ(カセット)交換方式を採った家庭用テレビゲーム機がいくつも登場するなかで、1980年代に入って大きな変化が起きます。「カセットビジョン」(1981年〔エポック社〕)の人気です。ゲームソフトの種類が豊富で(11作品)、家庭用テレビゲーム機の普及が加速しました。
そのソフトは、スポーツ(競技)ゲーム、アクション(動作)ゲーム、シューティング(射撃)ゲームが中心です。
家庭用テレビゲーム機の普及が始まった頃、パーソナルコンピュータ(パソコン)を低価格化し、ゲーム機能に特化した通称「ゲームパソコン」が複数社から発売されます(PC-6001シリーズ、ぴゅう太、M5、RX-78、SC-3000、PV-2000など)。
そして1983年7月、夏のボーナス商戦の時期、2台の家庭用ゲーム機が同時発売されます(1983年7月15日)。「SG-1000」〔セガ〕と「ファミリーコンピュータ」(通称ファミコン)〔任天堂〕です。
同じ月には「カセットビジョンJr.」〔エポック社〕と「ぴゅう太Jr.」〔トミー〕といった先行ゲーム機の廉価版も発売され、家庭用テレビゲーム機の爆発的な普及が、発売から2年の間で起きました(1985年)。
この現象では、人気の自社アーケードゲーム(【ドンキーコング】、【マリオブラザーズ】など)をソフト化したことや小学生向けの人気漫画雑誌でのキャンペーンなどを展開したファミコンが家庭用ゲーム機市場の中心となりました(アクションゲーム【スーパーマリオブラザーズ】〔任天堂〕1985年9月発売をきっかけに)。
ファミコンでもゲームソフトは、スポーツ・アクション・シューティングのジャンルが中心でした。
けれどもその状況は、ファミコンの周辺機器「ファミリーコンピュータディスクシステム」(1986年〔任天堂〕)の発売によって変化がもたらされます。
同機は、次のような特徴がありました。
当時ゲームソフトは子どもには高額でしたが、店頭に設置された機械でディスクに安価で書き換えることが可能になります(ファミコンのカセットソフトの形式はROM=リード・オンリー・メモリー。内容の書き換えが不可能な形式だった)。その結果、製造に時間のかかるROMカセットで生じていたソフト増産の遅れにも対処できました。
そして何より、パソコンゲームでは当然だったデータのセーブ機能をファミコンのソフトで実現しました。同機によって、長い物語性を必要とするアドベンチャー(冒険)ゲームが家庭用テレビゲームでも可能になりました。
ディスクシステムの第1弾のソフトは、アクションアドベンチャーゲーム【ゼルダの伝説】(1986年〔任天堂情報開発本部〕開発・〔任天堂〕販売)です。
開発者・宮本茂は、ハリウッド映画【インディ・ジョーンズ】シリーズからの影響も明かし、「剣と魔法の世界」が主題だったと述べています。謎解きの要素も設けられた同作は、物語の舞台となる中世西洋風の架空の地・ハイラル王国の名を冠した「ハイラルファンタジー」と謳われました。プレイヤーは勇者リンクとなり、大魔王にさらわれたゼルダ姫の救出に挑みます。
同機第2弾ソフトとして、和風のアドベンチャーゲームも発売されます。
謎解き要素のない和風のアクションアドベンチャーゲーム【謎の村雨城】(1986年〔任天堂情報開発本部〕〔ヒューマン〕開発・〔任天堂〕販売)です。プレイヤーは剣客・鷹丸(たかまる)となり、謎の生命体が支配し始めた4つの城の4人の城主を制し、最後の敵(ラスボス)のいる村雨城を目指します。
このようにディスクシステムの初期は、西洋風と和風の両方のアクションアドベンチャーゲームが用意されました。
ディスクシステム発売の年、ファミコンに参入していなかった複数のパソコンゲームのメーカーが結集し、ひとつのファミコンディスクソフトを制作します。
【ディープダンジョン 魔洞戦記】(1986年〔ハミングバードソフト〕開発・〔DOG〕発売)です。発売元のDOGは、Disk Original Groupの略です。
同作は、パソコンゲームで人気ジャンルだったロールプレイングゲーム(RPG)でした。物語性が重視された世界観のなかで経験値を上げて成長していく登場人物を操作し、パーティと呼ばれる仲間を連れて旅に出ることが多いジャンルです。
プレイヤーは勇戦士ラルとなり、魔物に魂を抜き取られ抜け殻となったエトナ姫の魂を取り戻すため、魔物退治に向かいます。襲ってくる主要な敵は、勇者の剣、勇者の盾、勇者の鎧です。それはプレイヤーの勇戦士以前に、魔物退治に出かけたものの魔物に取り憑かれてしまった勇戦士ルウの武具でした。
ファミコン初の3Dダンジョン(3次元表現による迷宮画面)が謳れた同作では、子ども向けが中心だった家庭用テレビゲームの世界に、複雑なパソコンゲームの世界を実現しました。
その翌年には、主に中世風の西洋を舞台にしたRPGゲームが続々と続き、家庭用ゲームで剣と魔法の世界が活況を呈します。
【リンクの冒険】〔任天堂〕、【エスパードリーム】〔コナミ〕、【メルヘンベール】〔サンソフト〕、【聖剣サイコカリバー】〔イマジニア〕、【クレオパトラの魔法】〔DOG〕、【ドラキュラⅡ 呪いの封印】〔コナミ〕、【カリーンの剣】〔クリスタルソフト〕などです。
西洋を舞台にしたRPGが続出した翌年、アドベンチャーゲーム【ふぁみこんむかし話 新・鬼ヶ島】(1987年〔パックスソフトニカ〕〔任天堂情報開発本部〕開発・〔任天堂〕販売)が発売されます。
その表題通り、「桃太郎」、「かぐや姫」、「浦島太郎」など様々な日本の昔話に基づいた物語で構成されました。物語がテキスト(文字)で進行される形式は、のちにテキストアドベンチャーと呼ばれます。
プレイヤーは主人公の2人コンビ、川から流れてきたおとこのこ(どんべ)と竹のなかにいたおんなのこ(ひかり)となって冒険します。主人公への行動指示(コマンド)には「ひとかえる」があり、男の子では物語が先に進まないところでは女の子に主人公を入れ替えると次の場面に進めるなど、男女の入れ替えが物語の進行に必要となっています。
主人公の2人は、鬼にさらわれた育ての親であるおじいさんとおばあさんの救出と、鬼を従えていた竜が暴れる町に平和をもたらすことを目指します。
男の子の主人公は物語の最後、竜との戦いで刀を持って戦うことになります。
ディスクシステムの登場と同じ頃、ファミコンのカセットソフトにもセーブ機能がもたらされます。
ディスクシステム発売の前年、ゲーム作家・堀井雄二(劇画原作者・小池一夫主宰の劇画村塾3期生。【月刊OUT】読者投稿欄担当)によるPC-8801版【ポートピア連続殺人事件】(1983年〔エニックス〕)が、ファミコンに移植されます(1985年)。同ゲームは「ファミリーコンピュータ初のアドベンチャーゲーム」が謳い文句でした。
同ゲームのファミコン版には、パソコンゲームにはあるデータのセーブ機能がありませんでした。当時ファミコンのソフトでは、長い物語性を持つアドベンチャーゲームを途中で中断することはできず、電源を付け続けておくか、やり直す場合はそれまでの手順をメモしたうえで一から始める必要がありました。
その翌年、パソコンゲームで人気ジャンルだったロールプレイングゲーム(RPG)がファミコンにも登場します(同傾向の先行作にアーケードゲーム【ドルアーガの塔】1984年〔ナムコ〕のファミコン化1985年もある)。
アクションゲーム+RPGを意味する「アクティブ・ロールプレイング」を謳ったPC-8801版のRPG【ハイドライド】(1984年〔T&E ソフト〕)を移植したファミコンの初のアクションRPG【ハイドライド・スペシャル】(1986年〔T&E ソフト〕)と、ファミコン初のオリジナルRPGとなった【ドラゴンクエスト】(1986年〔エニックス〕)です。
ハイドライド・スペシャルには、バッテリーバックアップ(電池を導入したセーブ)方式ではないデータのセーブ機能(そのため電源を切ると消失)と長いパスワード機能が設けられます。こうしてプレイヤーが勇者となって魔王に連れ去られた王女を救うという長い物語を楽しむことを可能にしました。
プレイヤーが伝説の勇者の血をひく主人公となって竜退治を行うドラゴンクエスト(通称ドラクエ)でも、長いパスワード機能(復活の呪文)が設けられました。同じ年に発売されたハイドライド・スペシャルとドラクエの両作共ではこうして進んだ所からゲームを再開することが可能となり、ファミコンにおけるRPGを実現しました。
少年漫画とのメディアミックスでもあったドラクエ(モンスターデザイン:鳥山明、シナリオ:堀井雄二、音楽:すぎやまこういち。他にディレクション&プログラミングに中村光一、スペシャル・サンクスに【週刊少年ジャンプ】編集者・鳥嶋和彦)は大人気となります。
このドラクエ発売翌年からファミコンのソフトにバッテリーバックアップ機能が普及し、ファミコンでもパソコンゲームでは人気ジャンルだった西洋ファンタジーのRPGが急増します。
その際、パソコンゲームのRPGの多くがファミコンに移植されています。
【魔城伝説II ガリウスの迷宮】〔コナミ〕、【ドラゴンスレイヤーⅣ】〔ナムコ〕、【ウルティマ ~恐怖のエクソダス~】〔ポニーキャニオン〕、【覇邪の封印】〔アスキー〕、【銀河の三人】〔任天堂〕、【ウィザードリィ 狂王の試練場】〔アスキー〕などです。
なかでもアメリカ発のRPGの2作の古典、ウルティマとウィザードリィがファミコン化されたこの年は記念の年となりました(1987年)。
ウルティマは戦士・僧侶・魔法使い・盗賊などの4人以上のパーティによって魔導師を退治する物語で、2Dフィールド形式の原形とされます。ウィザードリィは戦士・僧侶・魔法使い・盗賊など最大6人のパーティによって魔術師が盗んだ護符を取り戻す物語で、3Dダンジョン形式の発端とされます。
両作のファミコン化は、PC-8801版【ウルティマ II 魔女の復讐】(1985年〔スタークラフト〕)とPC-8801版【ウィザードリィ 狂王の試練場】(1985年〔フォア・チューン〕開発・〔アスキー〕発売)が、それぞれ国内発売された2年後にあたります。
この時期は、パソコンゲーム版の国産RPGの勃興期でもありました。
PC-8801版【ドラゴン&プリンセス】(1982年〔光栄マイコンシステム/光栄〕)やPC-8801版【ぱのらま島】(1983年〔日本ファルコム〕)、PC-8801版【ザ・ブラックオニキス】(1984年〔BPS〕)など先行作を経て、PC-8801版【夢幻の心臓】(1984年〔クリスタルソフト〕)、PC-8801版【ドラゴンスレイヤー】(1984年〔日本ファルコム〕)、PC-8801版【ハイドライド】(1984年〔T&E ソフト〕)の3作は同じ年に発売されています。
さらに遡ればこうした「剣と魔法の世界」における竜退治のゲーム化は、テーブルトークRPG【ダンジョンズ&ドラゴンズ】(1974年〔Tactical Studies Rules〕)が原典です。
テーブルトークRPGとは、テーブルトップゲームの和製英語です。ボードゲームにて、ゲームのルールを説明する司会者(ゲームマスター)を置き、各プレイヤーがゲームに登場するキャラクターになりきって楽しみます。コンピュータRPG以前の呼称です。
ドラクエ発売の翌年、ファミコンからは次のRPGソフトが発売されました。
【闘人魔境伝 ヘラクレスの栄光】〔データイースト〕、【未来神話ジャーヴァス】〔タイトー〕、【ゾンビハンター】〔ハイスコアメディアワーク〕、【月風魔伝】〔コナミ〕、【チェスターフィールド 暗黒神への挑戦】〔ビッグ東海〕、【アラビアンドリーム シェラザード】〔カルチャーブレーン〕、【エスパ冒険隊 魔王の砦】〔ジャレコ〕、【インドラの光】〔ケムコ〕、【ミネルバトンサーガ ラゴンの復活】〔タイトー〕、【星をみるひと】〔ホット・ビィ〕、【ロマンシア】〔トンキンハウス〕、【時空勇伝 デビアス】〔ナムコ〕、【ドラゴンスクロール 甦りし魔竜】〔コナミ〕、【ファイナルファンタジー】〔スクウェア〕などです。
なかでも、ファイナルファンタジーはその後、シリーズ化される人気作となります(キャラクター・デザインは竜の子プロダクション出身の天野喜孝)。この初代作が発売された年としても、ドラクエ発売の翌年は記念年となりました(1987年)。
ファミコンオリジナルのRPGが急増した年、和風ファンタジーPRG【桃太郎伝説】(1987年〔ハドソン〕)も発売されています(監督はさくまあきら。劇画村塾1期生。週刊少年ジャンプ読者投稿欄担当)。
「○超シリーズ」と題されたパロディソフト(【ボンバーキング】、【ファザナドゥ】)の第3弾でドラクエの方法論が和風で表現されました。
プレイヤーは桃太郎となり、最後の強敵(ラスボス)・閻魔大王との戦いに挑みます。
桃太郎の最強の武器は「勇気の剣」です。ゲームの後半、桃太郎は閻魔大王のいる鬼ヶ島に渡るため、勇気の剣を海にかざします。
家庭用テレビゲーム機の誕生は、携帯型ゲーム機の誕生と同時期です。
アメリカで世界初の携帯型電子ゲーム機が発売された3年後、国産の携帯型液晶ゲーム機が発売されます。「ゲーム&ウォッチ」(1980年〔任天堂〕)です。1機種1ゲームで、時計機能としても考えられていたことにその名は由来します(2年後マルチスクリーン型に)。
それから5年後、「ゲームポケコン」(1985年〔エポック社〕)が、国産初のソフト交換式の携帯型液晶ゲーム機として登場します。
そのさらに4年後、こうした両機の強みを取り込んだ「ゲームボーイ」(1989年〔任天堂〕)が発売されます。それ以前の携帯型液晶ゲームと同様にスポーツ・アクション・シューティングのゲームが中心で、特にパズルゲームの大ヒットが同機の普及に貢献しました(【テトリス】1989年〔任天堂〕)。
ゲームボーイのソフトで初のRPGは、【魔界塔士Sa・Ga】(1989年〔スクウェア〕)です。ディレクター・シナリオ・ゲームデザインは河津秋敏です。
プレイヤー(人間・エスパー・モンスターの3種類から選定)は、楽園とされた「世界の中心の塔」の復活のために冒険に出ます。かつて塔は四つの世界を束ねていたものの、現在は玄武・青龍・白虎・朱雀の四天王によって支配されており、プレイヤーはそれらの打倒を目指します。
ゲームボーイのソフトは、本体発売の翌年増加します(1990年)。
刀剣が登場するものでは、ウォー・シミュレーションゲーム【SDガンダム SD戦国伝 国盗り物語】(1990年〔バンダイ〕)、シューティングゲーム【天神怪戦】(1990年〔ライブプランニング〕開発・〔メルダック〕発売)、和風RPG【あやかしの城】(1990年〔セタ〕)、西洋RPG【アレサ】(1990年〔やのまん〕)、和風アクションRPG【鬼忍降魔録 ONI】(1990年〔パンドラボックス〕〔ウィンキーソフト〕開発・〔バンプレスト〕発売)などが発売されました。
あやかしの城では、プレイヤーは織田信長の命を受けた忍者(はやぶさ)となります。朱雀殿・玄武殿・白虎殿・青龍殿を抜け、妖怪と彼らを従える陰陽師・どうまん(*平安時代の呪術師・芦屋道満に基づく)の打倒を目指します。
各殿では、宝箱のなかの刀剣を集めます。「妖刀」は大事なワープ道具となり、各場面の強敵を倒すたびに「朱雀の剣」、「玄武の剣」、「白虎の剣」、「青龍の剣」と刀剣の価値が高まります。
そして魔王殿にて「降魔の剣」(ごうまのけん:不動明王が手にする悪魔を降伏させるための剣)となったとき、最後の敵(ラスボス)・どうまんとの戦いに挑むことになります。
鬼忍降魔録 ONIでは、プレイヤーは隠れ忍び(天地丸)となり、妖怪退治に挑みます。
鬼と人間の間にできた子である主人公は、隠忍(おに)に変身する力を持ち、変身時には防御力は上がるも攻撃力は落ちるという独自設定がなされました。ディレクターとシナリオは佳丈祐子(かじょうゆうこ)、世界観設定は飯島健男(現・飯島多紀哉)です。
最後の敵(ラスボス)・妲己(だっき:殷王朝の妃で国を滅ぼした悪女とされる。中国の妖怪・九尾の狐がその姿を借りることもある)に挑むにあたり、プレイヤーの兄貴分・飛龍の彩蔵が探し出した「日光剣」が活躍します。
日光剣は妲己が巣食う平安京の結界を解く力を有し、妲己との決戦が可能になります。
1980年代中盤から大流行した家庭用テレビゲーム。スポーツ・アクション・シューティングといったゲームに、セーブ機能の技術発展によるRPGの登場後、刀剣ゲームは飛躍的に広がることとなりました。