女性向け恋愛アドベンチャーゲーム【下天の華】(2013年〔ルビーパーティー/コーエー〕)。制作メーカーの人気ゲームシリーズ「信長の野望」30周年記念作。プレイヤーは戦国時代を生きる女性の忍びを操作。織田信長、明智光秀、羽柴秀吉、徳川家康、森蘭丸などの戦国武将を恋愛で攻略する。
(■戦国武将との乙女ゲーム登場)
据え置き型の家庭用ゲーム機と同等の映像の美しさが目指された携帯型ゲーム機では、乙女ゲームが特に人気ジャンルとなります。主人公の女性キャラクターを操作して複数の男性それぞれとの恋愛成就を楽しむこのジャンルでは、戦国武将を含む幾人もの歴史上の人物が乙女によって攻略されます。
電子機器メーカーでもありレコード会社でもある企業が手がけた家庭用ゲーム機(PlayStation、通称プレステ) の発売10周年を記念し、携帯型ゲーム機が発売されます。PlayStation Portable 、通称PSP です(2004年12月12日発売。価格 20,790円) 。
CPU(中央処理装置)の演算処理能力は32ビット、ディスプレイは4.3インチの大型液晶で画面比率は幅16高さ9のワイドスクリーン、自社独自規格の記憶媒体UMDとメモリースティックDuoによる動画再生など、映像の美しさは据え置き型の家庭用ゲーム機と同等が目指されました。
また、無線LAN、USBポートも装備。発売翌年にはウェブページの閲覧も可能となります。
以後、本体はシリーズ化され、テレビ出力対応、マイク内臓、ワンセグ放送の録画機能、インターネットラジオ対応、インターネット検索機能などの仕様変更やアップデートがなされていきます(2009年PlayStation Portable go発売など)。
PSPでは本体発売と同時に、スポーツ、対戦型格闘技、麻雀、レース、パズル、アクションの多彩なジャンルが6タイトル登場します。その後、【モンスターハンター ポータブル】(2005年〔カプコン〕)と【モンスターハンターポータブル 2nd】(2007年〔カプコン〕)の両ソフトの人気によって本体は爆発的に普及することになりました。それぞれ、PlayStation2(通称プレステ2)ソフトでハンティングアクションゲーム【モンスターハンター】シリーズの移植版、日本ゲーム大賞2007・大賞受賞作でした。
その人気から、【ゴッドイーター】(2010年〔バンダイナムコゲームス〕)などのハンティングゲームも続きました。同作では、プレイヤーが使用する特殊武器は剣形態にも変化します。
PSP本体発売の2年後、和を題材にしたソフトが発売されています。
これまでプレステ2で和風作品を多く発売してきたメーカーは(悪役商会の俳優を多用した【悪代官】と【江戸もの】など)、18種類のバラエティ&パーティゲーム集【大江戸千両箱】(2006年〔グローバル・A・エンタテインメント〕開発・〔タイトー〕発売)の開発を手がけます。
同作では、メーカーの過去作の江戸ものからの設定が受け継がれます。プレイヤーは江戸時代を生きる架空の「江戸完全奉行」を操作。「悪徳川家康」に託され、人気がまったくない大江戸ランド内の様々な遊戯施設を楽しむことでその発展を担います。
大阪地球防衛軍、茶運人形奮闘記、忍者飛翔伝、人力回転寿司、夢木馬輪廻、関取破壊王、脳たこ、ものしり五十三次など、独特の短いゲームを楽しむことができました。
トレーディングカードゲームのシステムを導入したPSP初のオリジナルの同ジャンル作【戦国絵札遊戯 不如帰 -HOTOTOGISU- 乱】(2008年〔アイレムソフトウェアエンジニアリング〕)も発売されます。
プレイヤーは武田信玄、上杉謙信、毛利元就、織田信長など40人以上の戦国武将から1人を選択し、カード化された戦国武将・姫君・剣術家・忍者などのなかから軍団を編成。陣形(5×5)に配置することで敵との合戦を繰り返し、天下統一を目指します。オンラインで最大4人まで通信対戦を楽しめます。
同作は、岡野修身(おかのおさみ)が監督を務めたファミリーコンピュータソフト【不如帰】(ほととぎす:1988年〔タムテックス〕開発・〔アイレム〕発売)を基礎とし、ゲームデザインを松尾悟郎(トレーディングカードゲーム「マジック:ザ・ギャザリング」2001年日本チャンピオン)が手がけました。40人以上の人気イラストレーターによる280人以上の戦国武将などのオリジナルイラストも話題となりました。
2年後、続編【戦国絵札遊戯 不如帰 大乱】(2010年〔アイレムソフトウェアエンジニアリング〕)も制作されます。ダウンロード版も併せて発売されました。
こちらでは、人気アニメのキャラクターデザイナーも新たに加わった50人以上の人気イラストレーターが、600枚以上のカードに戦国武将などのオリジナルイラストを描きました。発売に併せて戦国グッズ専門店「戦国魂天正記」(東京・代官山店)でゲーム大会も開催しています。
PSPでは本体発売から6年以降、乙女ゲーム(*主人公の女性キャラクターを操作して複数の男性それぞれとの恋愛成就を楽しむ)が大きなジャンルとなります。
この頃、プレステ2で増加し始めていた女性向け恋愛アドベンチャーゲームのなかでも和風作品の舞台化が続くなど、乙女ゲームのメディアミックス展開が盛んになり始めた時期でした(2008年【遙かなる時空の中で】初舞台化、2010年【薄桜鬼】初舞台化)。
また、声優アワードの創設(2006年)、キャラクターボイス賞新設(ファミ通アワード2010年度)、男性声優だけの音楽レーベルができたのもこの時期です(2009年Kiramune設立)。
大正時代を舞台にした女性向け恋愛アドベンチャーゲーム【華ヤカ哉、我ガ一族】(はなやかなり、わがいちぞく:2010年〔ヴァンテアンシステムズ〕開発・〔オトメイト/デザインファクトリー/アイディアファクトリー〕発売)では、プレイヤーは帝都の財閥で使用人として働くことになった田舎の貧しい農家出身の少女を操作。次期当主争いに巻き込まれるなかで財閥の息子達(すべて母親が違う6人)などとの恋愛(攻略)を楽しみます。財閥の次男は日本刀を差す帝國陸軍大佐、四男はサーベルを差す警察官です。
高木亜由美がシナリオを手がけた同作は、漫画化とオリジナル・ビデオ・アニメーション(OVA)化(共に2012年)。キャラクターボイス(声優)の主要な面々がそのままの役どころで出演した舞台化もなされました(2013年)。ゲーム版はシリーズ化されています。
女性向け恋愛アドベンチャーゲーム【二世の契り】(にせのちぎり:2010年〔オトメイト/デザインファクトリー/アイディアファクトリー〕)も続きます。キャラクターデザインは人気アニメのキャラクターデザインを数多く務める、いのまたむつみです。
プレイヤーは戦国時代にタイムスリップした弓道部の女子高校生を操作。上杉政虎(のちの上杉謙信)から毘沙門天の御使い(みつかい)とみなされ、上杉家と対立する武田信玄とその軍師・山本勘助とによる川中島の戦い(第4次)の時代を生きます。
そんな主人公には上杉政虎直属の忍び・軒猿衆(のきざるしゅう)の若き面々(5人)などとの恋愛(攻略)が待っています。
制作時期は、山本勘助を主役とするNHK大河ドラマ第46作【風林火山】(2007年)が放送されていた時期にあたります。
これら2作を手がけたブランドは同年さらに、女性向け恋愛アドベンチャーゲーム【雅恋 〜MIYAKO〜】(2010年〔サンクチュアリ〕開発・〔オトメイト/デザインファクトリー/アイディアファクトリー〕発売)も発表します。
プレイヤーは平安時代を生きる陰陽師・安倍晴明(あべのせいめい)が使役する少女の式神(*陰陽師が操る人ならざる存在)を操作。宮廷でなんでも屋(特別仕事寮)の仕事をこなすなか、安倍晴明と対立する陰陽師・蘆屋道満(あしやどうまん)による陰謀に立ち向かいます。
そんな主人公には、安倍晴明や特別仕事療で共に働く武人・源頼光(みなもとのよりみつ)ら(4人)などとの恋愛(攻略)が繰り広げられます。
この年は他に、女性向け恋愛アドベンチャーゲーム【維新恋華 龍馬外伝】(2010年〔ブリッジ〕開発・〔ディースリー・パブリッシャー〕発売)も発売されています。プレステ2の【幕末恋華 新選組】(2004年)から続く幕末を舞台にした「恋華」シリーズの第3弾です。
この年は、NHK大河ドラマ第49作【龍馬伝】が放送された年でもありました。
維新恋華 龍馬外伝では、プレイヤーは土佐藩に生まれ育った少女を操作し、幼馴染の坂本龍馬と共に激動の幕末を生きます。
少女は、郷士(山内一豊土佐入封以前の長宗我部家に仕えた武士身分で下士とされた)の家に生まれた設定です。早くに母を亡くし、父が仲間の下士の動きを上士(山内系)に密告することで生活の糧を得ていた後ろめたい過去があります。父はやがて上士に追い込まれて山中で自死を選び、そんなとき少女の支えになったのが同世代の郷士・坂本龍馬でした。
歴史的背景がより押さえられた同作では、そんな主人公と幕末の志士達(中岡慎太郎、沖田総司、高杉晋作、河上彦斎)との恋愛(攻略)が待っています。
本体発売から7年後、明治時代を舞台にした刀剣ゆかりの和を題材にしたソフトが登場します。
女性向け恋愛アドベンチャーゲーム【文明開華 葵座異聞録】(2011年〔ヒューネックス〕開発・〔フリュー〕発売)では、プレイヤーは明治6年にタイムスリップした女子高校生(初期設定名は水戸葵。名称変更可能)を操作します。
明治時代では、そこで出会った旅一座・葵座の男性座員達(5人)との恋愛(攻略)が待っています。座員達はじつは世の中を平安に治める力も持つ「家紋」を護る任務を負っており、「神器」と呼ばれる武器に変化します。プレイヤーは日本刀、薙刀、短剣などの姿になった彼らを武器に敵と戦うことになる物語でもあります。
翌年、バージョンアップ版も制作されました(2012年)。
家庭用ゲーム機のソフトで数多くのヒット作を生み出してきた企画集団が開発に参画した乙女ゲームも登場します。
女性向け恋愛アドベンチャーゲーム【十三支演義 〜偃月三国伝〜】(じゅうざえんぎ えんげつさんごくでん:2012年〔RED〕開発・〔オトメイト/デザインファクトリー/アイディアファクトリー〕開発・発売)です。中国の歴史書【三国志】や同書を通俗化した【三国志演義】に基づきます。
プレイヤーは猫族(まおぞく)と人間との間に生まれた少女の武人・関羽(かんう)を操作し、人間から忌み嫌われてきた猫族と人間との対立の物語世界を生きます。十三支とは干支の十二支から外れた猫を指す軽蔑語です。
そんな主人公には、同じ猫族で幼い頃からの仲間である劉備(りゅうび)と張飛(ちょうひ)、その猫族の力を利用しようとする曹操(そうそう)と夏侯惇(かこうとん)、そして女性化された呂布(りょふ)に仕える張遼(ちょうりょう)、公孫賛(こうそんさん)に仕える趙雲(ちょううん)など、多くの武人との恋愛(攻略)が展開されます。2年後、続編も制作されました(2014年)。
同作に続いて、女性向け恋愛アドベンチャーゲーム【L.G.S 〜新説 封神演義〜】(2012年〔オトメイト/デザインファクトリー〕開発・〔オトメイト/アイディアファクトリー〕発売)が制作されます。プレイヤーは女性の天才仙人・楊栴(ようせん)を操作し、妖怪仙人・蘇妲己(そだっき)らを封じ、そして恋愛(攻略)に取り組みます。プレステ2作品【S.Y.K 〜新説西遊記〜】(2009年)から続く同ブランドの古典シリーズの第2弾でした。
封神演義と西遊記は、共に中国の民の時代に成立した神仙と妖怪が登場する物語です。
この年は他に、女性向け恋愛アドベンチャーゲーム【十鬼の絆 〜関ヶ原奇譚〜】(ときのきずな せきがはらきたん:2012年〔オトメイト/デザインファクトリー〕開発・〔オトメイト/アイディアファクトリー〕発売)、女性向け恋愛アドベンチャーゲーム【源狼 GENROH】(2012年〔オトメイト/デザインファクトリー/アイディアファクトリー〕)の乙女ゲームも発売されています。
十鬼の絆 〜関ヶ原奇譚〜では、十家ある鬼の頭領のひとりである少女を操作。関ヶ原の戦いへ至ろうとする戦国時代を舞台に、人間とはかかわらないよう密かに生き続けていた鬼の一族の物語が恋愛(攻略)と共に描かれます。発売の翌年、舞台化もなされました(2013年)。
不思議な力を持つ少女を操作する源狼 GENROHでは、源義経・武蔵坊弁慶らが登場する源平合戦を題材に恋愛(攻略)が展開されます。
「ネオロマンスゲーム」を掲げた女性向け恋愛アドベンチャーゲームの黎明期の1作となるプレステ1作品【遙かなる時空の中で】(2000年)を手がけたブランドは、PSPでは女性向け恋愛アドベンチャーゲーム【下天の華】(2013年〔ルビーパーティー/コーエー〕)を発表します。同メーカーの人気ゲームシリーズ「信長の野望」30周年記念作でした。
下天の華ではプレイヤーは戦国時代を生きる女性の忍び(くのいち)を操作。最初の密命の依頼主・明智光秀によって彼の妹姫として安土城内で雇われることになり、以後、城内で戦国武将との恋愛(攻略)が展開されます。登場する戦国武将は他に、織田信長、羽柴秀吉、徳川家康、森蘭丸などです。
同作は発売年には漫画化。翌年に続編も発売(2014年)。さらにその後、舞台化もなされ(2015年、2016年)、メディアミックス展開がされました。
同年は他に、江戸時代の遊郭にタイムスリップした女子高校生を主人公にした女性向け恋愛アドベンチャーゲーム【花咲くまにまに】(2013年〔ファイブ・ピー・ビー/メージス〕)や、大正時代から昭和初期を舞台に孤島で営まれる旅館の若き女将を主人公とした女性向け恋愛アドベンチャーゲーム【月影の鎖 -錯乱パラノイア-】(2013年〔TAKUYO/拓洋興業〕)などの和風の乙女ゲームも発売されています。
その後も刀剣ゆかりの和風の乙女ゲームは続きます。
忍者学校を舞台にした女性向け恋愛アドベンチャーゲーム【忍び、恋うつつ】(2014年〔オトメイト/デザインファクトリー/アイディアファクトリー〕)、妖刀・村雨丸を手にする犬塚信乃(【南総里見八犬伝】に登場する八犬士のひとり)を男装の少女とした女性向け恋愛アドベンチャーゲーム【里見八犬伝 八珠之記】(2014年〔クインロゼ/アートムーヴ〕)などです。
それら2作と同年、乙女ゲームと誤解されるイメージをまとったアドベンチャーゲームとリズムゲームを合わせた和風ゲームも登場しました。
「歌で戦う幕末革命アベンチャー」が掲げられた【幕末rock】(2014年〔マーベラスAQL〕)です。
プレイヤーは主人公の坂本龍馬を操作。味方は高杉晋作と桂小五郎の志士(ロッカー)です。3名は、土方歳三・沖田総司が所属する最高愛獲(トップアイドル)集団・新撰組による「天歌」(ヘブンズソング)以外の歌を歌う者は死罪とする江戸幕府にrockで立ち向かいます。最大の敵は徳川慶喜(江戸幕府第15代将軍)と井伊直弼(大老)です。
同作は、漫画版、小説版、テレビアニメ版、舞台版が同時に展開されたメディアミックス作でした(2014年)。
据え置き型の家庭用ゲーム機と同等の映像の美しさが目指された携帯型ゲーム機では、刀剣ゆかりの作品は和風の乙女ゲームで数多く登場しました。そこでは乙女によって、歴史上の人物を含む幾人もの男性が恋愛で攻略されています。