様々な種類がある刃物の中でも、現代の日常生活において最も身近なのが包丁です。主な用途が料理である包丁は、毎日のように使う人も多いかもしれません。そのため、きちんと研いで手入れをしていたとしても、いつか捨てなければならないタイミングがやって来ます。しかし、包丁の捨て方について迷ってしまう人も案外いるのではないでしょうか。扱い方を誤れば危険物にもなってしまう包丁の安全な捨て方や、捨てる際の注意点などについてご説明します。
包丁の切れ味が悪くなってしまった場合、もう使えないと思われるかもしれません。ところが、刀剣を研磨してその美しさを維持するように、包丁も丁寧に研ぐことを習慣付けておけば、切れ味を復活させられます。
刀剣であれば、「研師」(とぎし)と呼ばれるプロの職人によって磨き上げられますが、包丁の研ぎ方は、そのやり方を最初に覚えてしまえば、砥石や紙やすりを用いてご家庭でも意外と簡単にできるのです。
しかし、お手入れの一環として包丁を何度も研いでいる間に、やはり寿命が来てしまいます。そのような包丁をそのまま使っていると、大きな怪我に繋がることもあるため、捨て時を見極めることが非常に大切です。そのタイミングを判断するポイントは、大きく分けて2つあります。
刃の欠け具合が小さければ、自分で研いで引き続き使用できます。
ところが包丁の刃が大きく欠けてしまうと、刃を削り取って成型し直させなければならず、これには高い技術が必要です。
そのため、目安として刃が5mm以上欠けたときには、新しく買い替えたほうが良いと言えます。
柄(え)、すなわち持ち手の部分が取れたり、折れたりした場合も、包丁を捨てるべきタイミングです。包丁の柄が壊れる前触れとなるのが、使用しているときにぐらつくこと。
包丁の根元が錆びたことが原因となり、柄が腐食して脆くなったときに現れるサインです。
柄がぐらついたままで硬い食材などを切ろうとすると、突然折れる危険性もあります。
ホームセンターなどで包丁用の柄を購入し、自分で交換することも可能ですが、柄を差し込む前に、包丁の根元に付着した錆を取ったり、しっかりと柄を嵌めたりするのには、やはり専門的な技術が不可欠。
また、刃物を取り扱うお店で修理を受け付けているところもあります。包丁の柄を含めて、何度も修理して長く使っていくのも大切なことですが、包丁の種類によっては修理代が高額になり、時間が掛かってしまうことも。こう言ったことから、柄が壊れたタイミングが包丁の捨て時と言えます。
包丁は通常のゴミと同様に、ゴミ袋に入れて自治体で収集してもらうことが可能。多くの自治体で「不燃ゴミ」として扱われていますが、包丁をゴミとして捨てる際の分別方法や出し方の詳細なルールは、全国の自治体で統一されていません。
また、メンテナンスが不要なことから最近人気のあるセラミック包丁は、「陶器」に分類するかどうかで捨て方が変わってくるのです。
包丁の素材が金属であってもセラミックであっても、自治体ごとに異なる分別のルールを事前に調べておくことはとても重要なこと。包丁を含めたゴミの分別方法は、市の公式サイトや広報紙に掲載している自治体が多いので、包丁を捨てる前に必ず確認しておくことが大切です。
包丁をゴミとして捨てる際に、最も配慮しなければならないのが安全面です。自治体に収集してもらうためには、刃物である包丁を家の外に出す必要があります。
そのため、通りすがりの子どもなどが包丁だと知らずに掴んでしまったり、ゴミ収集の作業員に、思いがけず怪我を負わせてしまったりする危険性も考えられるのです。
こういったことから自治体の多くは、包丁を厚紙やダンボールなどで包んだ上で大きく「キケン」と表示し、収集場所に置いておくことを包丁の捨て方におけるルールとして定めています。また、包丁を外に放置しておく状態に不安がある場合は、収集時間ギリギリに出すことも、危険を回避するひとつの方法です。
作業を素手で行うと、自分自身の手を傷付けてしまう可能性があるため、作業に入る前に軍手や防刃手袋を嵌めておきます。
刃の部分を厚紙やダンボール、新聞紙などで巻いていきます。素材が硬いダンボールは折り曲げづらいため、怪我をしないように細心の注意を払いましょう。
また、薄い新聞紙はすぐ破れてしまうので、なるべく多く巻き付けます。このとき、刃の露出を防ぐために、少しずつずらしながら厚紙を巻いておくことがポイント。こうすることで包丁から紙が外れにくくなります。
包丁が厚紙などから抜けないように、ガムテープで3~4ヵ所をしっかりと固定します。
油性ペンで大きくキケンと書いた地域指定のゴミ袋に、厚紙などを巻いた包丁を入れます。ゴミ袋に入れずに、包丁を厚紙などにくるんだまま出すように定めている自治体もあるため、その場合は巻いた厚紙に直接キケンと記載しておきましょう。
加えて自治体によっては、他のゴミが入った袋に包丁を入れることはせず、分けて出すことを推奨しているところもあります。そのため、袋に入れる方法についても事前の確認が必要です。
ここまで包丁の捨て方についてご説明しましたが、一人暮らしをして初めて買った包丁や、料理好きだった故人がずっと使っていた包丁など、愛着や思い出がある物を「ゴミ」として捨てることを躊躇する人もいるかもしれません。
そんな人にオススメしたいのが、包丁を神社などで供養してもらう方法。ご先祖様のほかに、人形やペットなどの供養を受け付けている神社や寺院は全国にあります。
実はその中には「刃物供養祭」などと銘打って、包丁などの刃物を供養しているところもあるのです。ここからは、その中でも特に著名な神社などをいくつかご紹介します。
千葉県南房総市にある「高家神社」(たかべじんじゃ)は日本で唯一、料理の祖神「磐鹿六鴈命」(いわかむつかりのみこと:尊称・高倍神[たかべのかみ])を主祭神として祀る神社です。
磐鹿六鴈命の子孫「高橋氏」が朝廷に献上したと伝わる「高橋氏文」(たかはしうじぶみ)には、磐鹿六鴈命が白蛤(しろうむぎ:ハマグリのこと)と堅魚(かつお)を鱠(なます)に調理し、12代天皇「景行天皇」(けいこうてんのう)に供して大変喜ばれたとする記述があります。
これが現在、磐鹿六鴈命が料理の神様として信仰される由来になったと言われているのです。高家神社と言えば、毎年5月17日と旧「神嘗祭」(かんなめさい)の日に当たる10月17日、そして同じく旧「新嘗祭」(にいなめさい)の11月23日に、もともとは宮中行事のひとつであった「庖丁式」の奉納の儀を特殊神事として執り行っていることで知られています。
これに加えて同社では、毎月17日に庖丁供養祭を開催。拝殿の左右には「庖丁塚」が置かれており、調理師など多くの料理関係者が包丁の供養に訪れています。
岐阜県関市にある「関鍛冶伝承館」では、毎年11月8日に刃物供養祭を開催しています。関市と言えば、作刀における優れた5つの伝法「五箇伝」(ごかでん)のひとつ、「美濃伝」(みのでん)の発祥地として名高い「刃物のまち」です。
11月8日は、「良い刃」(いいは)の語呂合わせと、全国の鍛冶屋などで「鞴祭り」を行ってきた日であることから、1996年(平成8年)4月に「刃物の日」として、「日本記念日協会」に登録されました。
なお「ふいご」とは、刀工や鍛冶師などが金属を鍛錬する際に用いる送風装置のことを言います。関鍛冶伝承館で開催される刃物供養祭では、長年大切に使われてきた包丁などの刃物に感謝の気持ちを込めて、手厚い供養が行われているのです。
刃物供養祭で包丁などの刃物を供養してもらうには直接持参する方法の他に、関鍛冶伝承館を始めとする、関市内の市役所などの施設に設置された回収ボックスに入れて収集してもらう方法があります。この刃物回収ボックスは関市以外にも全国で設置されており、そこで集められた不用な刃物もまた、同祭で供養してもらえるのです。
刃物供養祭のあとは、再び刃物や金属として使えるように、リサイクルやリユースを実施しています。遠方であるために刃物供養祭へ直接行くことが難しい場合は、郵送などでも受け付けてくれるので、一度検討してみるのも良いかもしれません。