戦国時代の合戦の場において、兵士達が主力兵器のひとつとして使用していた火縄銃(鉄砲)には、多種多様な付属品が備えられていました。その基本的な道具は、火薬や弾丸などが挙げられますが、それら以外にも、実戦での使用において少しでも早く発射するために、さらには運搬時にも不便にならないように作られた付属品がいくつもあるのです。
火縄銃を円滑に使用する目的で製造された付属品について、その種類と用途などを解説します。
火縄銃の点火は「火縄」の先端に火を点け、それを種火として直接火薬に着火する方式になっています。
火縄の素材はヒノキや竹、麻など、その種類は様々。なかには、各地に生育している植物の繊維が用いられることもありますが、最も多いのは竹です。竹は入手しやすいだけでなく、その油は火付きが良いこともあって火縄の素材によく使われています。しかし、竹で作った火縄は一度湿気を帯びてしまうと火付きが悪くなるため、軍用の火縄銃には木綿素材の火縄が多く用いられたのです。
火縄は、紐状にした素材に硝石(しょうせき)を染み込ませて、ゆっくりと確実に火が燃えるように作られており、2mほどの長さで2~3時間ほど火を保つことが可能です。
「火縄入れ」は緊急時でもすぐに着火できるように、点火した火縄を入れて火種を保持するための容器です。青銅などの金属で作られた物が多く、別名「胴の火」(どうのひ)や「胴火」(どうび)とも呼ばれます。
蓋付きの円筒のところに火縄の燃えている箇所が来るように、柄(え)の後端から火縄を差し込むのが基本的な使用方法です。
円筒の蓋に透かしが施されているため若干の煙は出ますが、空気が入ることにより、火縄入れの中で火種が消えることはありません。燃え具合によって、柄の部分にある開口部から指で縄を送って使用します。
「火打道具」は、火縄に点火するのに必要な道具の総称です。火を出すためには、まず「火打石」と「火打金」(ひうちがね)を打ち合わせます。そして「火口」(ほくち:綿やガマの穂などを蒸し焼きにした物に、硝石や炭の粉などを混ぜた物)に火を移し取って最初の火種とし、これを火縄の先に付けて点火していました。
火打道具は携帯しやすいように小型化されており、一般的には、革製の袋にホクチ・火打石・火打金の一式が入れられています。
火縄銃で用いられているのは、硝石と木炭、硫黄を混ぜて作られた黒色火薬です。
用途によって、①「口薬」(こうやく/くちぐすり)と②「胴薬」(どうやく:別称「強薬」[ごうやく])の2種類が使い分けられており、それぞれを入れておく容器も異なっています。
「口薬入れ」(こうやくいれ/くちぐすりいれ)は、点火用の火薬である口薬を、火縄銃の火皿(ひざら)に注入するための容器です。
発火を遅らせないようにする目的で用いられる口薬は、木炭や硫黄などを原料とした火薬をすり潰して、粉末状になっています。
火縄銃に使われている火薬には、点火用の口薬の他に発射用の物もありますが、口薬のほうをより細かい形状にすることで区別していたのです。
口薬入れから火薬を注入する際には、手を放すと蓋そのものの重みで自然と下がって閉まる構造になっていました。口薬入れのおもな素材は、竹や角(つの)、鼈甲(べっこう)などが使われており、漆や皮革などが被せられた美しい物も見られます。
「胴薬入れ」は、発射用の黒色火薬を銃へ直接装填するのに使われていました。その素材は、金属が用いられている物もありますが、引火などの事故に備えて、より危険の少ない動植物性の物が多く見られます。
「強薬入れ」(ごうやくいれ)と称されることもあり、口薬入れに比べて大きく、蓋を使用してその銃1発分の火薬を量ることが可能です。西洋製の胴薬入れは、口を指で押さえてレバーを動かすことで、決められた分量の火薬が出る物もありました。
胴薬入れは多種多様な容量や形状、素材の物が存在していますが、腰に付けて使用する物が多く見られます。また、なかには家紋などが入っている物もあり、これは、士分(武士の身分)であった人物が所有していた胴薬入れである証しとなっているのです。
「早合」(はやごう)は薬莢(やっきょう)の一種で、1発分の火薬と弾丸をセットにして詰められる道具です。竹や木、紙などの素材を漆で塗り固め、筒状に作られています。
頭部分に弾丸を載せた早合を銃口に密着させ、一挙に装填することが可能。この仕組みにより、火縄銃の射撃速度が速められたのです。
戦場などでは複数の早合を紐で結び、首から掛けて装備していたと考えられており、片手のみで発射ができる「短筒」用として、2本の早合を紐で繋げられた物が見られます。
「玉型」(たまがた)、及び「玉鋳鍋」(たまいなべ)は、火縄銃の弾丸を作るのに用いられる道具です。火縄銃の口径に合わせて必ず付属し、おもに鉄製。火縄銃の弾丸は鉄や銅、陶製の物もあり、また、場合によっては土や石、紙などが用いられることもありますが、一般的に多く使われている素材は鉛です。
玉鋳鍋に入れて熱した鉛を厚めの柄杓(ひしゃく)で掬い(すくい)、ペンチのような形をした玉型の頭部にあるくぼみに注ぎ込みます。鉛は玉型の中ですぐに固まり、柄を開くと球状になった弾丸を簡単に取り出すことが可能です。
「玉入れ」とも呼ばれる「弾丸入れ」は、その多くが布や革袋で作られています。弾丸入れのなかには、角などを素材とした「烏口」(からすくち/からすぐち)と呼ばれる部品を装着した物があり、先端へ行くにしたがって細くなっているため、弾丸をひとつずつ取り出せるのが特徴です。
これもまた、火縄銃の発射を素早く行うのに凝らされた工夫のひとつだと言えます。
「胴乱」(どうらん)は火縄や弾丸、早合、火薬入れ、火打道具といった火縄銃の発射に必要な付属品を収納し、腰に付けて携帯するための容器です。紙や薄い板、皮革のみ、もしくはそれらを組み合わせて作られています。
胴乱の負い紐は、革製ではなく縄を素材として使われていることが多く、これは万が一、火縄が戦場で不足したときに代用するためであったと考えられているのです。
また胴乱には、個人用だけでなく複数人分の付属品を運搬する団体用の物もあります。これらの多くは縦長の木箱であり、その内部には火縄銃の付属品を収納する引出しが設けられていました。