火縄銃(鉄砲)は1543年(天文12年)、ポルトガル人によって鹿児島の種子島へ伝来して以降、入念な手入れと適切な保管方法によって健全な保存状態が維持され、現代にまで遺されている物が多くあります。戦国時代における「武具・武器」としての役割を果たした火縄銃は、現代の日本では、昨今の戦国ブームも相まって実際に自身でも所持したいと考える人も増加していますが、美術館や博物館などで展示される「文化財」としての側面もあるのです。
歴史的資料ともなる貴重な火縄銃を後世に伝えるため、これから所持する人々にもぜひ知っておいていただきたい正しい手入れや保管方法について、分かりやすくご説明します。
一般的に現在の日本では、「銃砲刀剣類所持等取締法」(銃刀法)によって火縄銃など銃砲類の所持が禁じられています。
しかし例外として、銃刀法に基づいて登録申請を行い、各都道府県の教育委員会から「銃砲刀剣類登録証」(登録証)の発行を受けた火縄銃に限り、所持することが可能です。火縄銃を保管する際には登録証の紛失を防ぐため、必ず一緒に保管しておくようにしましょう。
火縄銃の中でも登録対象は、「おおむね1867年(慶応3年)以前に日本国内で製造された、または外国より伝来した銃」である「古式銃」でなければならないことが、前提として定められています。
さらには、例えば全体の形状や、銃身に施された彫り物などの美しさ、そして歴史的資料としての価値があると判断された火縄銃のみ、登録が可能となっているのです。つまり、戦のない現代の日本で火縄銃は、武具・武器としての性能ではなく、古美術品や骨董品としての価値に重きが置かれていると言えます。
古式銃に認定された火縄銃などの鉄砲のみならず、刀や書画などの古美術品は、健全な保存状態を維持しているかどうかが、その価値を決定付ける判断基準のひとつ。そのためには、やはり定期的な手入れが欠かせません。
なかには「錆が付いているほうが古くから伝わる証しとなる」と考える人がいるかもしれませんが、製造されたとき、もしくは現役の武具・武器として使用されていたときと同じ状態であることが、古美術品としての火縄銃にとって最高の保存方法となるのです。
もちろん火縄銃は複雑な機構を有しているため、長い間保管されている中で部品がなくなったり、銃身の一部分が欠けてしまったりするなど、もとの形をまったくそのまま保っておくことはできません。
しかし、そのような場合でも原形になるべく近付けて復元することが、火縄銃の古美術品としての価値を保つことに繋がります。現在にまで遺された火縄銃を美しい状態で、あとの世代に伝えていくために、正しい方法で手入れを行い、保管しておくことが非常に大切です。
種別 | 火縄式銃砲 | 全長 | 120.8cm |
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銃身長 | 82.6cm | 口径 | 1.45cm |
代表的な 所蔵・伝来 |
刀剣ワールド財団〔東建コーポレーション〕 |
健全な保存状態、つまり錆などがあまり付いていない状態が維持されている火縄銃であれば、銃身などを乾いた布で拭いて汚れやホコリを取り除いたあと、椿油などの油を染み込ませた「油布」(あぶらぬの)を用いて薄く塗油する手入れを月に1度ほど行うだけで構いません。機関部のピン(ネジ)や軸には、潤滑油としてよく用いられる「スピンドル油」を差しておきます。
和銃など機関部が真鍮製(しんちゅうせい)である場合、その内部にある回転部分やスプリングは乾いた布で拭くだけで問題ないですが、それ以外の場合は、「グリス/グリース」と呼ばれる、半固体状、もしくはペースト状の潤滑剤を薄く塗っておきましょう。
また、「銃腔」(じゅうこう:銃身内部の空洞部分)は、布を巻き付けた真鍮製の「洗矢」(あらいや:先端に布や刷毛などを付けて、銃身内部の洗浄に用いる棒)を用いて汚れを落とし、油を付けます。
火縄銃などの鉄砲に油を塗るのは防錆がおもな目的ですが、時間が経過すると油が酸化して古くなるため、必要があればこまめに塗り直しましょう。
保存状態があまり良くなく、錆がひどく付いている火縄銃を手入れする際、最初に行うのは錆を落とすこと。そのためには銃身を分解しなければいけませんが、和銃と西洋製の銃でその手順は少し異なります。
以上の手順を2、3回繰り返すと徐々に錆が出なくなってくるので、その後は月に1度ぐらいの頻度で油布を用いて塗油します。
なお、火縄銃に施されている銘や彫り物に錆が付いている場合は、サンドペーパーなどの研磨紙や硬い真鍮ブラシなどは、傷が付く原因となるため決して使用せず、針の先端などの細い物で少しずつ丹念に除去するようにしましょう。
※元々の火縄銃がニス仕上げになっていたときは、最初にサンドペーパーを掛けてニスを落としておく。
火縄銃は戦国時代における実際の戦いで、または現在の日本において、特別な許可を受けた演武射撃や射撃場での実弾発射などで何千発撃ったとしても、常に正しい方法で手入れを行っていれば、後世にまで長く伝えていくことができます。
しかし、通常の道具や工具では対処できないほどの錆が付いている場合などには、決して無理をせず、銃砲店など専門のお店や業者に分解掃除を依頼しましょう。