銃は、銃身に火薬と弾丸を込め、火薬に火を点けて急激に燃焼させ、このとき発生するガスの圧力で弾丸を押し出す兵器です。この仕組みに欠かせない火薬と弾丸を銃身に装填(そうてん)する方法は、銃口から込める「前装式」(ぜんそうしき)と、銃尾から込める「後装式」(こうそうしき)に大きく分けられます。
銃の歴史の初期に採用されたのは、機構が簡単な前装式でしたが、より早く確実な装填法を求めて、複雑な仕組みの後装式が開発されました。弾薬の装填法が改良されてきた経緯、前装式と後装式、それぞれを採用した、いくつかの銃を紹介します。
前装式は、銃口から弾丸と火薬を装填する方式で、先込め式、マズルローディングとも呼ばれます。最も古く、長い歴史を持つ装填法で、最初期の銃から19世紀後半までは前装式の銃が主流でした。
のちに完成した後装式の銃が普及して、現在の銃に前装式はほとんど採用されていませんが、長く使われたのは、それだけ利点があったということです。前装式のメリットとデメリットを見てみましょう。
前装式銃のメリットは、発砲も装填も銃口から行うため、銃身は筒状の単純な構造で、製造しやすく、製造コストを抑えられることです。また、単純な造りのため部品の数が少なく、保守・管理が容易でした。
こうしたメリットの一方で、前装式銃は、発砲するたびに銃口を手元に戻して次の弾薬を装填しなければならず、時間がかかります。
また、前装式銃は不発弾を取り除く作業も銃口から行うため、このとき遅発が起きると致命的な事故に至りました。このため、より早く、安全に装填できる後装式が開発されることになるのですが、複雑な構造の後装式は完成に長い年月を要したのです。
前装滑腔銃(ぜんそうかっこうじゅう)は、前装式銃のなかでも最初に完成し、長く使われました。滑腔とは、銃身の内側がなめらかなことを意味しており、のちに考案される、弾道を安定せるために銃身の内側に溝を刻む加工「ライフリング」が施されていないためにこう呼ばれます。
前装滑腔銃のなかから、いくつかを紹介しましょう。
火縄銃は、1543年(天文12年)に日本の種子島にもたらされたとされる前装滑腔銃。これを手本にして、日本の鉄砲鍛冶師が手がけた国産火縄銃が、戦国時代の合戦に投入されました。
種別 | 火縄式銃砲 | 全長 | 128.2cm |
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銃身長 | 100.7cm | 口径 | 1.4cm |
代表的な 所蔵・伝来 |
刀剣ワールド財団〔東建コーポレーション〕 |
ゲベール銃は、幕末の日本に大量に普及したオランダ製の前装滑腔銃です。この頃の日本には、欧米列強国が強い軍事力を背景に開国と通商を迫っており、「江戸幕府」や諸藩が海防を急いで、ゲベール銃を購入しました。
日本が導入した当初のゲベール銃は、火打石を叩いて火を熾(おこ)す、燧石式(すいせきしき)と呼ばれる点火装置を搭載していましたが、これを日本の鉄砲鍛冶師が、さらに確実な点火装置、雷管式(らいかんしき)に改良し、この改造ゲベール銃が国内に多く出回ったのです。
種別 | 和製西洋式銃 | 全長 | 137.5cm |
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銃身長 | 99.9cm | 口径 | 1.8cm |
代表的な 所蔵・伝来 |
刀剣ワールド財団〔東建コーポレーション〕 |
前装施条銃(ぜんそう[しじょう/せじょう]じゅう)は、銃身の内側にライフリングと呼ばれる、らせん状の溝を刻んだ前装式銃です。
ライフリングを施した銃身を通過する弾丸には自転運動が加わり、自転する弾丸は空気抵抗を受けても安定して進むため、飛距離は伸び、命中率も高まりました。
早合(はやごう)やペーパーカートリッジは、前装式銃の装填作業を素早く行うために、1回分の弾丸と火薬をまとめた分包です。
日本の早合は、竹筒や筒状にした紙に弾薬を詰めて作り、西欧のペーパーカートリッジは紙で弾薬を包みました。これらを前装式銃にそのまま装填したり、あるいは開封して弾薬を銃口から注ぎ込んだりしたのです。
後装式は、銃尾から弾丸と火薬を込める装填法で、後込め式、元込め式とも呼ばれます。後装式銃は、銃尾に開閉式の装填部を持ち、ここから弾丸と火薬を詰めました。
前装式銃が発砲するたびに銃口を手元に戻して装弾しなければならないのに対して、後装式銃は銃撃体勢を崩さず、戦況によっては伏せたままで弾薬を装填できます。また、前装式は銃口から込めた弾薬を棒で押し固めますが、後装式はこうした手間は不要で、素早く装填して次の発砲に移れるのが利点です。
後装式銃は、15世紀に開発されていましたが、装填の早さでは前装式よりすぐれているものの、装填部が開閉式であるため、ここから発砲に必要な火薬の燃焼ガスが漏れやすく、威力が不充分でした。
この課題をクリアできたのは19世紀の産業革命を経て、工業技術が高まり、気密性の高い装填装置を製造できるようになったからです。こうして後装式銃が戦場での実用に耐えられるようになると、前装式銃に代わり、世界の戦場で主力銃になっていきます。
後装単発銃は、1860年代に欧米諸国で開発された初期の後装式銃で、まだ連射の機能がなく、発砲するたびに次の弾薬を装填しました。銃尾に造られた開閉式の装填装置は「遊底」(ゆうてい)と呼ばれ、いくつかの型が見られます。
遊底が銃身の側面にあるタイプは、開閉する構造が刻み煙草を入れる「莨囊」(ろうのう/ろくのう)に似ていることから「莨囊式」と呼ばれていました。また、遊底が銃身の上面にある「活罨式」(かつあんしき)、下面に付けたレバーで開閉する「底碪式」(ていがんしき)があります。
種別 | 和製西洋式銃 | 全長 | 129.5cm |
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銃身長 | 89cm | 口径 | 1.7cm |
代表的な 所蔵・伝来 |
刀剣ワールド財団〔東建コーポレーション〕 |
後装連発銃は、後装式銃に複数の弾薬を装填できるようになり、連射が可能になった銃です。
1860年代に実用化され、世界中に普及しました。連射できるようになったのは、長年、別々に装填してきた火薬・弾丸・発火剤を「薬莢」(やっきょう)と呼ばれる金属製の容器に詰めて、一体化した銃弾が開発されたからです。
この薬莢型銃弾の完成で、発砲のたびに弾薬を詰める必要はなくなりました。やがて後装式銃に複数の薬莢型銃弾を装填できる「弾倉」(だんそう)が作られて、連射が可能になったのです。銃の戦闘能力は飛躍的に高まり、各国が後装連発銃を導入しました。
種別 | 輸入古式西洋銃 | 全長 | 94.5cm |
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銃身長 | 55cm | 口径 | 1.9cm |
代表的な 所蔵・伝来 |
刀剣ワールド財団〔東建コーポレーション〕 |
初期の後装連発銃は、発砲後、空になった薬莢の排出と、次の銃弾の装填を、レバーで操作して行う手動式でした。この一連の作業を機械化したのが自動装填式銃で、オートマチックとも呼ばれます。
自動装填式は、発砲時の反動や、火薬の燃焼ガスの圧力を利用して、空になった薬莢を排出し、弾倉内の新しい銃弾を送り出す仕組みです。1880年代にアメリカの銃メーカーやデンマークの軍が実用化し、第二次世界大戦では自動装填式の拳銃が広く使われました。
最新の自動装填式銃には、発砲後の再装填までを自動で行い、次に引き金を引くまでは発砲されないセミオートマチックと、引き金を引いている間、連射し続けるフルオートマチックがあり、各国が警察官用や軍用に採用しています。
ちなみに銃社会と言われるアメリカでは、1934年以来、民間人へのフルオートマチック銃の販売は禁止されているのです。