茶道で使われる道具

茶碗(唐物)
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茶碗(唐物) 茶碗(唐物)
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鎌倉時代になると、それまで貴族の間で嗜まれていた「喫茶」が、武士にも浸透します。そこで、器である茶碗(唐物)に注目。茶碗(唐物)は贅沢な輸入品として羨望され、所持することがステータスとなり、安土・桃山時代には武士の褒賞にもなっていったのです。茶碗(唐物)にはどんな歴史があり、どんな種類があるのかを詳しくご紹介します。

唐物茶碗の特徴と歴史

陸羽

茶碗(唐物)とは、唐(=中国)から伝来したお茶をおいしく飲む器のことです。760年、唐の茶人「陸羽」(りくう)は、著書「茶経」の中で、中国では紀元前2700年頃にはお茶が飲まれていたと記載しています。

唐の時代(618~907年)に作られた茶碗(唐物)が、「青磁」(せいじ)と「白磁」(はくじ)。青磁とは、青緑色の釉が掛けられた磁器のこと。東洋最古の陶窯(とうよう:陶磁器を焼く窯)と言われる中国の越州窯(えっしゅうよう:浙江省)で作られた青磁が最上だと、陸羽は述べています。また、白磁とは、表面が雪のようにやわらかい白色の磁器のこと。

白磁は刑州窯(けいしゅうよう:河北省)で作られた物が見事。また北宋時代(960~1125年)には天目(てんもく)という黒い釉が掛けられた茶碗が、建窯(けんよう:福建省)で作られるようになりました。日本へは、鎌倉時代に、臨済宗の開祖「栄西」(えいさい)が禅宗文化と共に茶碗(唐物)を伝えます。

茶碗(唐物)は、贅沢な輸入品。高貴で繊細であると、日本の貴族や武家、高い位の僧侶の間で、たいへん珍重されたのです。ところが、14世紀になると、侘茶の創始者「村田珠光」(むらたじゅこう)が出現します。村田珠光は、足利将軍家に仕え、唐物を鑑定する同報衆をしていた「能阿弥」(のうあみ)に師事し、「唐物目利き」(からものめきき)の法を習得。

この結果、村田珠光は整った美しさがある高価な茶碗(唐物)よりも少し崩れた茶碗(唐物)を美しいとする独特の価値観を示すに至ったのです。例えば、灰黄色・褐色など、青くならなかった青磁を愛用。これは「珠光茶碗」、「珠光青磁」と言われ、名物と呼ばれるようになりました。

なお、1576年(天正4年)「織田信長」は、「丹羽長秀」に珠光茶碗を下賜。茶器が褒賞とされた最初の事例だと伝えられています。その後、村田珠光の精神は「武野紹鷗」や「千利休」に引き継がれ、日本国内で茶碗(国焼)の作陶が行われるようになるのです。

唐物茶碗の種類について

日本で茶碗が作られるようになっても、当初からあった茶碗(唐物)に対する憧れや畏敬の念は廃れません。中国から伝わり、人々を熱狂させた茶碗(唐物)について解説します。

青磁茶碗とは

青磁茶碗(せいじちゃわん)

「青磁茶碗」とは、青緑色を呈した茶碗のこと。青磁の起源は、中国の殷の時代(紀元前14世紀頃)にあるとされ、後漢時代に普及しました。中国の越州窯の青磁や龍泉窯(りゅうせんよう)の青磁が有名です。青磁の特徴と言えば、透明感のある青緑色。

この青緑色を出すことは当初難しく、不良品が多かったとされますが、制作技術や窯が進歩したことで、晩唐以降、大量生産されるようになりました。陸羽は、青磁茶碗に浅黄色の煎茶を入れると茶の色が映えると歓喜。そのため、宋代にかけて青磁茶碗が大流行し、王侯貴族達がこぞって買い求めたとされています。

白磁茶碗とは

白磁茶碗

「白磁茶碗」とは、表面が白色の磁器のこと。青磁の素地と釉の中から鉄分を除去して白色の素地ができ、その白色の素地に透明の釉を掛けて作られます。1,250度以上の高熱で焼かれ、硬度が高いのが特徴です。

特に刑州窯(けいしゅうよう:河北省)、定窯(ていよう:河北省)が名窯と言われ、良品が作られました。一方、景徳鎮窯(けいとくちんよう:江西省)は、中国最大の陶窯と言われ、白磁が大量生産されました。

天目茶碗とは

曜変天目茶碗

「天目茶碗」とは、天目釉という鉄釉を掛けて焼いた、すり鉢状の茶碗のこと。中国で茶葉の産地だった天目山一帯の寺院で使用されていた茶道具を指します。広義では、すり鉢状をした茶碗全般を天目と呼ぶこともありますが、本来はすり鉢状が基本です。

なかでも、2段の口造り構造を持つ天目茶碗は、茶の保温に優れているとして愛好され、侘茶がはじまるまで正式な茶碗と言えば、天目茶碗でした。侘茶の発展以降も、最高級品の茶碗と言えば天目茶碗を指し、天目茶碗を使用する際は「天目台」と呼ばれる専用の漆塗りの台に乗せる決まりになっています。

日本では、特に珍重されてきた高級品ですが、なかでも建窯(けんよう)で作られた天目茶碗は建盞(けんさん)、吉州窯(きっしゅうよう)で作られた物は玳皮盞(たいひさん)、鼈盞(べっさん)と呼ばれ、高級品としてもてはやされました。

特に、最高級品とされるのが「曜変天目茶碗」です。福建省の建窯で作られた建盞で、世界に3点しか存在しない貴重品。すべてが日本に所蔵され、3点共に国宝となっています。

それは、静嘉堂文庫所蔵の曜変天目(稲葉天目)、京都大徳寺龍光院所蔵の曜変天目、藤田美術館所蔵の曜変天目です。天目茶碗として、他にも「灰被天目」(はいかつぎてんもく)、「油滴天目」(ゆてきてんもく)、「木葉天目」(このはてんもく)、「禾目天目」(のぎめてんもく)、「文字天目」(もじてんもく)などの種類があります。

まとめ

ここでは、中国伝来の「唐物」についての基礎知識を解説しました。「茶碗を大切に扱い日本に運んできた人がいる」、「その茶碗を長年にわたって伝承し大切にしてきた」といった歴史を思うと、お茶をいただく心も一層豊かになるのではないでしょうか。

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