茶道で使われる道具

茶釜
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「茶釜」(ちゃがま)とは、お茶を楽しむのに欠かせない湯を沸かすための茶道具です。中国から伝わり、日本で改良されました。茶釜には、「炉用」と「風炉用」があり、季節に合わせて、使い分けて楽しむことができます。湯をくみ、柄杓を扱う所作は、美しいかぎり。茶釜の歴史や種類、鉄瓶との違いや基本的な使い方、お手入れ方法までを詳しくご紹介します。

茶釜とは

「茶釜」とは、茶道で使用する湯を沸かすために用いる茶道具のひとつです。素材は鉄が多く、金、銀、陶磁製の物もあります。たぬきのおなかのようにぷっくりとして、口は小さくすぼまった形状の物。小さな物だと直径30cm、大きな物で100㎝と、サイズは様々です。

炉と炉釜

炉と炉釜

鍑

胴と蓋という、非常にシンプルな構造となっています。もともと中国から伝わった際はこの形状ではなく、「鍑」(ふく)と呼ばれる物でした。鍑は、首部分がくびれて腹が張り出しているのが特徴です。

喫茶の習慣が日本に伝わった際には、今のような茶葉や抹茶を使うのではなく、「磚茶」(たんちゃ)という茶葉を餅状に成形し、削って、鍑で煮出していたのです。この鍑が日本国内で改良されて、現在の茶釜の形になりました。

茶釜の種類

風炉と風炉釜

風炉と風炉釜

茶釜の種類としては、大きく2つあります。それは、「炉釜」(ろがま)と「風炉釜」(ふろがま)です。茶道の作法では、11月から4月には固定式の炉(囲炉裏)で炉釜を用い、5月から10月には可動式の風炉を使用するため、風炉釜を用います。

炉釜と風炉釜の違いは、一般的に分かりにくいのですが、購入したい場合には、お店で炉釜と風炉釜が明確に分けられて販売されています。家に囲炉裏がある場合を除いては、風炉釜を求める人の方が多いでしょう。

釣り茶釜

釣り茶釜

ほとんどが炉や風炉の上に直接おいて火にかけるタイプですが、炉釜のなかには、天井から下げた釜鎖にぶら下げて使う小ぶりの物もあります。

これは「釣り茶釜」(釣茶釜)と呼ばれており、3月から4月に使用されます。

茶釜は、実用性が重要とされるものの、茶碗などの茶器同様に鑑賞用としても重宝されています。

実際に触れて拝見する訳ではありませんが、炭点前の際に炉から上げた茶釜を客人は楽しむことができるでしょう。

茶釜のブランド

芦屋釜

芦屋釜(東京国立博物館「研究情報アーカイブズ」より)

古芦屋浜松地文真形釜

「芦屋釜」(あしやがま)とは、筑前国(現在の福岡県)で生産された茶釜のことです。鎌倉時代から生産されはじめ、室町時代には全盛期を迎えました。芦屋釜の特徴は、なめらかな肌触りと胴部の模様。梅や亀甲、七宝、そして梅花などが代表的です。

現存する茶釜の中でも「格調が高く高品質」という評価が高く、多くの茶人が好んで使用しています。実際、重要文化財に指定されている茶釜のほとんどが芦屋釜です。

室町時代には隆盛を誇っていたものの、安土桃山時代には衰退しはじめ、江戸時代初期には終滅しました。

天命釜

天明口厚釜(東京国立博物館「研究情報アーカイブズ」より)

天明口厚釜

「天明釜/天命釜」(てんみょうがま)は、下野国佐野庄天命(現在の栃木県佐野市)で生み出された茶釜です。丸みを帯びた形状で、地紋も少なめで非常にシンプル。

茶釜を製造する際には、土と粘土を混ぜ合わせて鋳型を作る片挽きという工程で、挽き目を残しているのが特徴です。一般的には、挽き目は残さないのですが、あえて残すことで素朴で味わいのある茶釜に仕上がっています。

落ち着いた雰囲気がある茶釜は、侘茶にぴったり。多くの茶人だけではなく、古美術品愛好家の心をくすぐっています。

京釜

「京釜」(きょうがま)は、室町時代末期に京都御所付近にある釜座通の釜座によって生み出された茶釜です。

16世紀後半、「織田信長」に仕え「天下一」の号を許された「西村道仁」(にしむらどうにん)や「千利休」の釜師を務めた「辻与次郎」(つじよじろう)などが活躍し、日本の茶釜生産の中心が京都に移りました。

古美術品を好む茶人は、先にご紹介したような芦屋釜、天命釜などを好んでいましたが、京釜は自分好みの茶釜を注文して作ってもらうことができるので、人気がありました。

鉄瓶との違い

湯を沸かすための道具としては、茶釜だけではなく「鉄瓶」もあります。どちらも湯を沸かす道具ですが、それぞれに違いがあります。茶釜の最も大きな特徴は、注ぎ口がないことです。

茶釜は1回で沸かせる湯の量が多いのが利点。そのため、大規模な茶会を開催する際には、茶釜を欠かすことができません。

なお、茶釜単体では湯を注ぐことができないため、柄杓(ひしゃく)を使って湯をすくいます。湯をくみ、柄杓を扱う所作は美しく、茶会の見せ場ともなっています。

一方、鉄瓶は茶釜が発達した物です。通常のヤカンと同様に注ぎ口と持ち手がついているため、湯ができればそのまま湯を注ぐことが可能です。1回で沸かせる湯の量は少ないと言えますが、その分、早い時間で湯を沸かすことが可能です。

なお、茶釜には持ち手がないのも特徴です。しかし、先にご紹介した釣茶釜には、持ち手が付いています。一見すると鉄瓶と勘違いしそうになりますが、良く見ると注ぎ口がないので、茶釜の仲間となります。茶釜と鉄瓶は比較的容易に見分けることができるでしょう。

鉄瓶

鉄瓶

柄杓

柄杓

茶釜の基本的な使い方

おいしいお茶をいただくために、茶釜を正しく使用することが必要です。茶釜の内部には、錆止めのため、本漆の焼き付け仕上げが施されています。

真新しい茶釜を使う場合は、そのまま使用すると漆が臭く感じられてしまうので、重曹を大さじ3杯ほど湯に入れて、一晩そのままにしておきましょう。翌日しっかりとすすいで湯を2~3回沸かすことも必要。それでも漆の匂いが残っている場合には、生姜の薄切りを入れて、もう数回湯を沸かすと、気にならなくなるでしょう。

また、湯を沸かす場合は、井戸水がおすすめと言われています。水道水を使う場合には、前日のうちに桶などに汲んでおいて、上の部分の水を使うと釜にやさしく、お茶もおいしくなります。なお、ガスや練炭などの上で茶釜を使用するのは、硫黄の臭みが付き、茶釜を痛めてしまうので、使用しないこと。

茶釜のお手入れ方法

風炉と風炉釜

風炉と風炉釜

茶釜は、鉄製なので、非常に錆びやすいと言えます。手の汗などでもすぐに錆びてしまうので、手で触れるのではなく帛紗(ふくさ)や懐紙などで取り扱いましょう。

万が一、手で触って脂気がついたりした場合は、熱湯でしっかりと洗って温湿布や乾布で拭き取る必要があります。

使用後は、水分をしっかり飛ばして乾燥させることが大事です。その際、火にかけて空焚きをしてはいけません。漆が焼けてしまい、湯が濁り、水漏れの原因にもなります。

また、磨き砂やクレンザー、金たわしは、茶釜を痛める原因となるので、使用しないこと。

きれいに洗ったあとは、湿気の少ない風通しの良い場所で保管しましょう。

まとめ

茶釜は、湯を沸かすための道具であり、鉄瓶と違って注ぎ口がないのが特徴です。茶釜の歴史や種類、使い方などを知っていれば、茶道をする際にもっと楽しめるでしょう。ぜひ茶釜にもこだわって、茶道を深く学んでみてはいかがでしょうか。

【東京国立博物館「研究情報アーカイブズ」より】

  • 「鍑」
  • 「古芦屋浜松地文真形釜」
  • 「天明口厚釜」

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